東大生と起業

第3回◆義足開発ベンチャーにP&Gを辞めて参画

2020.11.02

author
中村 正史
Main Image

中央官庁や大企業にキャリアを託してきた東大生の志向が変わってきています。起業したり、ベンチャー企業に入ったりすることが、一つの選択肢になっています。東大の起業家教育やベンチャー支援を担ってきた各務茂夫・大学院工学系研究科教授(産学協創推進本部副本部長)は「優秀な学生ほど自分の運命をどこかに託すのは最もリスクが高いと感じている」と言います(記事はこちら)。東大卒の起業家たちを取材すると、日本の変化が見えてきます。(写真は、BionicMの社員と並ぶ関口COO=前列左から2人目。その右は孫小軍CEO)

義足の潜在ユーザーは1000万人 開発の遅れは世界的な課題

ロボット技術を活用した義足を開発しているBionicMの取締役COO、関口哲平さん(33)は、東大大学院農学生命科学研究科修士課程を修了後、7年勤めたP&Gを退社して、昨年4月にBionicMの経営に参画した。同社は、9歳の時に骨肉腫で右足を切断した孫小軍・代表取締役CEO(33)が2018年12月に設立し、事業を開始した。会社は東大アントレプレナープラザに入居している。

世界には約1000万人の義足の潜在ユーザーがいるが、経済的な理由や機能の問題から利用者は40%程度といわれる。義足の市場はドイツとアイスランドの2社が寡占し、さまざまな製品を出しているが、人間の足と同じように能動的にひざを伸ばしたりけり上げたりすることができない。階段は両足相互に昇降できない、つまずくとひざが折れて転倒する、もう一方の足のひざや腰に負担がかかり利用者の大半が腰痛をかかえる、などの課題がある。

BionicMのパワード義足は、筋肉に代わる力を発揮でき、義足に体重をかけて身体を持ち上げることができる。つまずく時はひざを伸ばして転倒を防ぐ。先の2社も1製品ずつパワード義足を発売しているが、価格や機能的な制限から普及が進まず、大きな改良の余地がある。

現在、試作段階に入っており、製品化して21年夏の販売を目指している。今年6月には中国・深圳に現地法人を設立しており、日本と中国で販売する。

「パワード義足は世界的にもほとんどありません。足の切断は交通事故や労働災害のイメージが強いのですが、昨今は糖尿病など病気によるものが増え、日本でも半分以上は病気が原因です。世界では30秒に1本の頻度で、糖尿病で足を切断しているというリポートもあり、世界的な課題です。世の中はこれほどロボット技術が発達しているのに、義足の業界は遅れているのです」

社名のBionic(生体工学)に加えたMには、モビリティーとヒューマンの二つの意味を込め、技術と人間がいかに融合できるかという思いを表している。

BionicMのパワード義足。筋肉に代わる力を発揮し、人間の足と同じ機能を持つ
BionicMのパワード義足。筋肉に代わる力を発揮し、人間の足と同じ機能を持つ

新着記事