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「渋滞学」の西成活裕教授 文系、理系の枠組みでは現代的課題は解けない

2020.10.30

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中村 正史
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文系、理系の選択をする時に、カギを握るのが数学です。大学入試で数学を課さない大学もありますが、最近は文系社員が多い企業でも、AI(人工知能)やデータサイエンスの基礎を教える動きが出てきました。『渋滞学』などの著書があり、数学の面白さを伝えている西成活裕・東大先端科学技術研究センター教授に、これから必要な人材や数学教育などについて聞きました。(写真は、米国人工知能学会の総会に合わせて開かれた就職説明会で、中国の百度〈バイドゥ〉のブースに集まる若手研究者=2019年1月)

西成活裕さん

話を聞いた人

西成活裕さん

東京大学先端科学技術研究センター教授

(にしなり・かつひろ)東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。博士(工学)。ケルン大学理論物理学研究所(ドイツ)客員教授、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授などを経て現職。専門は数理物理学、渋滞学。著書に『渋滞学』『とんでもなく役に立つ数学』など多数。

分野を融合、越境する「第三の人材」が求められている

――日本では大学受験のために、高校で文系、理系に分かれて、大学以降も交わらないことの問題点が指摘されています。文系、理系を分けるのは数学ができるかどうかです。

私も文系、理系の区分は要らないと思います。昔はそれでよかったのですが、いま人類が解かないといけない課題は、融合した知識でないと解けません。例えば環境問題にしても、物理、化学、経済、医学などの知識が必要です。それだけ多くの知識を修めている人はいませんが、一人の頭の中に多くの知識を持っている人が救世主になると思います。

その際に、キーになるのが数学です。数学が理解できないと、いろんなものをつないでいくことができません。ある著名な数学者が「数学ができると何がうれしいかと言えば、読めない本がなくなることです」と言ったのですが、その通りだと思います。数学の言葉は外国語に近い、ユニバーサルな言葉です。逆に数学ができないと、数式が出てきただけで本を閉じるしかありません。全分野をつないでいくのが数学です。

私が理想とする「第三の人材」とは、理論も現実も両方がわかっていて、いろんなことが頭に入っている人です。理論だけの人とか狭い分野の人、逆に理論や専門がなくて経験はものすごくある人がいますが、そうではなくて、両方知っていて何かソリューションができる人、分野を融合し越境して、専門こだわらず、いろんなことが考えられる人材が必要です。

――西成先生は数学、物理、工学の研究室を経験した珍しい経歴です。大学院では航空宇宙工学専攻ながら、数学の研究室にも物理の研究室にも出入りしていた。文字どおり学問越境派です。

私が一番嫌いな質問は「先生のご専門は何ですか」です。私は一つの専門にこだわるつもりはありませんから。

先ほどの「第三の人材」を育てるのに欠かせないのが数学です。AIも大学3年くらいまでの知識が必要です。ただ、私は今の数学教育は変えた方がいいと感じていて、海外のように純粋数学と応用数学の2種類があっていいと思います。日本では純粋数学をずっと教えていますが、応用数学の立場から見ると、教え方が全然違います。海外の大学には応用数学科がかなりありますが、日本にはほとんどありません。最近注目されているデータサイエンティストは応用数学の人ですが、日本ではやっと生まれ始めました。

――大学教育の前に、日本では高校の早い段階で文系、理系に分けるのが問題の元凶だと言われます。

才能はいつ開花するかわかりません。きっかけ次第で、かなり遅くてもいろんなことができます。ですから一律に文理を分けるのは反対です。

私は中学時代に一番できたのは数学と国語でした。国語の論説文は論理的に考えられるので大好きで、数学の背景は論理なので、私の中では国語も数学も同じものです。ですから、文理に線引きすることへの違和感が非常にあります。しかも一度決めると、なかなか変えられません。現代の課題は融合的なので、文系、理系の枠をやめて、柔軟に対応しないといけません。

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