東大生と起業

第4回◆大学に残り後輩と起業 「レールから外れても死ぬことはない」

2020.11.04

author
中村 正史
Main Image

中央官庁や大企業にキャリアを託してきた東大生の志向が変わってきています。起業したり、ベンチャー企業に入ったりすることが、一つの選択肢になっています。東大の起業家教育やベンチャー支援を担ってきた各務茂夫・大学院工学系研究科教授(産学協創推進本部副本部長)は「優秀な学生ほど自分の運命をどこかに託すのは最もリスクが高いと感じている」と言います(記事はこちら)。東大卒の起業家たちを取材すると、日本の変化が見えてきます。(写真は、曽根岡侑也CEO=前列中=、垣内弘太CTO=前列左=らELYZAの役員・社員たち)

AI技術で「まだ見ぬ世界の当たり前」をつくりたい

AI(人工知能)を活用して企業の課題解決を図るELYZA(イライザ)の曽根岡侑也・代表取締役CEO(30)は、東大大学院工学系研究科修士課程を修了し、2018年9月に同社を設立した。大学院ではAI研究の第一人者、松尾豊教授の研究室に所属し、17年3月に修士課程修了後は松尾研究室のスタッフとして残り、研究室のプロジェクトに参加していた修士2年(当時)の垣内弘太・取締役CTO(最高技術責任者、現在は博士課程所属)と2人で共同創業した。

「松尾研究室発、ディープラーニングのプロフェッショナル集団」というのが同社のキャッチフレーズ。会社は東大に近い文京区本郷にある。社名は、MIT(マサチューセッツ工科大学)が1966年に開発した世界初のチャットボット(自動会話プログラム)ELIZAに由来する。

「未踏の領域で当たり前をつくる、というのが私たちの理念です。ディープラーニング(深層学習)の登場で、画像処理では人間を超える精度を達成し、自動運転や不良品の検出など活用が進んでいますが、テキスト処理の分野では2年前まで人間に遠く及ばない精度だったため、顧客サポートセンターのチャットボットなど使われ方が限定されていました。それが、ここ2年で大きく変わり、人間を超える精度を達成しており、これから社会全体で大きな変化が予想されます。例えば医師がカルテに記入したり、検索したりするのをAI医師が代行してくれれば、医師は診断に集中できます。AI技術によって仕事や生活が変わるような社会実装を実現し、まだ見ぬ世界の当たり前をつくろうとしています」

同社の事業は、日本語の高度な自然言語処理を行うエンジンや、小売・製造業の分野で売り上げ予測や最適な価格提示などを行うサービスを提供する。アシックスや大手小売業者とAIを用いた需要予測の実証実験を行っているほか、四大法律事務所の一つ、森・濱田松本法律事務所と法律分野でのAI活用の共同研究を行っている。

自然言語処理では、今年9月に日本語に特化した高精度のAIエンジン「ELYZA Brain」を発表した。近年、グーグルが開発した「BERT」の登場で、英語のテキストでは人間を超えるケースが出ていたが、日本語のテキストでは十分な検証がされていなかった。同社によれば、ELYZA Brainは特定タスクで人間超えを達成し、日本語処理(テキスト分類)の精度は83.0%と、東大生らで調べた人間の精度80.6%を超えていることを検証した。

曽根岡さんは麻布中学・高校から東大に現役で入り、工学部システム創成学科から大学院に進んだ。大学4年の時、東大で開かれた日本ビジネスモデル学会を手伝った縁で、最年少で東証1部に上場したリブセンスの村上太一社長と1対1でじっくり話したことが、起業を考えるきっかけになった。

「ビジネスができる人はこういう人だと思いました。自分の能力やスキルを伸ばすには起業するのがいいと思い、学部を卒業する頃から起業してみようかと考えるようになりました」

曽根岡侑也・代表取締役CEO
曽根岡侑也・代表取締役CEO

新着記事