東大生と起業
第5回◆ロボット工学技術で3社目起業 「何度も打席に立つことが必要」
2020.11.06

中央官庁や大企業にキャリアを託してきた東大生の志向が変わってきています。起業したり、ベンチャー企業に入ったりすることが、一つの選択肢になっています。東大の起業家教育やベンチャー支援を担ってきた各務茂夫・大学院工学系研究科教授(産学協創推進本部副本部長)は「優秀な学生ほど自分の運命をどこかに託すのは最もリスクが高いと感じている」と言います(記事はこちら)。東大卒の起業家たちを取材すると、日本の変化が見えてきます。(写真は、米国シリコンバレーでYanbaru Roboticsを立ち上げ、自動運転車で高速道路を時速90キロで走行中の白久レイエス樹・現ARAV・CEO=左)
高専ロボコンで全国優勝、大学院でロボットスーツの会社を起業
ロボットエンジニアで、建設現場の遠隔化・自動化を目指すARAVの代表取締役CEO、白久レイエス樹さん(30)は、東大大学院卒起業家の中でユニークな経歴を持つ。「優秀なアントレプレナー」と評価も高い。
ARAVは自ら立ち上げた3社目の会社。社名はArchitectural Robust Autonomous Vehicles(建設向けの堅牢な自動運転車)の頭文字を取って付けた。建設現場の建機を遠隔地から操作できるシステムを提供しており、インターネットにつながるパソコンやスマホがあれば、1000キロ離れた所からもリアルタイムで操作できる。メーカーや機種を問わず、既存の建機に後付けでシステムを搭載できる。
沖縄県名護市の出身。沖縄工業専門学校機械システム工学科と専攻科で7年学び、高専ロボコン全国大会で優勝した。高専で学んでいた海中ロボットの研究を究めたいと、東大大学院新領域創成科学研究科の海洋技術環境学修士課程に進学した。「元々は起業に興味はなく、大学院を出て普通にメーカーに就職するつもりでした」
起業を考えるようになったのは、東大の産学協創推進本部が開講しているアントレプレナー道場を受講したことがきっかけだった。
高専時代に仲間と考えていたアイデアを元に、修士2年目に、その仲間らと計3人で25万円ずつ出し合って、人が装着する外骨格ロボットスーツ(人体機能拡張ロボット)を製造・販売するスケルトニクス社を共同創業した。最初の顧客はハウステンボスで、ドバイのオフィスにも売れた。2014年暮れの紅白歌合戦では、創業メンバーと2人で高さ2.6メートルになるロボットスーツを着て、氷川きよしのバックで踊る演出をした。
「さらに高度な機能を開発するプロジェクトに取り組みましたが、技術的にうまくいきませんでした。会社をどう発展させるかについて仲間と意見が合わなくなり、退任して転職することにしました」
スバルに入社し、先進安全技術の支援システムや自動運転車の開発を担当した。仕事を進める中で実感したのが、競合他社の自動運転のコア部分にイスラエルのモービルアイなどのベンチャー企業が入ってきていることだった。
「毎日いろんな実験をして仕事は楽しかった。ただ、自動車メーカーは変革期で、レガシーな産業にもベンチャーが入り込み、力が強まっているのを知って、衝撃を受けました。自分でもできることがあるのではないかと思いました」
