大学入試改革のゆくえ

英語4技能試験は挫折、ポートフォリオは課題山積……韓国の入試改革の教訓は?

2020.12.28

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山下 知子
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韓国は日本以上の学歴社会だと言われます。ネットフリックス配信のドラマ「愛の不時着」で主役をはったヒョンビンやソン・イェジンら俳優陣も軒並み大卒で、大学院で学んでいる人も少なくありません。その韓国では日本に先駆けて大学入試に英語4技能試験を導入しようとして頓挫したり、学習履歴を記録する「ポートフォリオ」をめぐって課題が浮き彫りになったり、日本の入試改革を先取りするような混乱が目立ちます。早稲田大学韓国学研究所招聘(しょうへい)研究員の春木育美さんに、韓国の現状と教訓を聞きました。(写真は、コロナ禍で行われた韓国の大学修学能力試験で、ソウル市内の試験会場に入る受験生を見送る母親ら=2020年12月3日、鈴木拓也撮影)

春木育美

話を聞いた人

春木育美さん

早稲田大学韓国学研究所招聘研究員

はるき・いくみ 同志社大学大学院博士課程修了(博士・社会学)。著書に「韓国社会の現在―超少子化、貧困・孤立化、デジタル化」(中公新書)、「現代韓国と女性」(新幹社)、編著に「韓国の少子高齢化と格差社会」(慶応義塾大学出版会)、「現代韓国の家族政策」(行路社)、共著に「知りたくなる韓国」(有斐閣)など。

――日本の大学入試では総合型選抜(旧AO入試)、学校推薦型選抜(旧推薦入試)の人気が高まっています。2015年には国立大学協会もAO・推薦の募集枠を拡大するという目標を打ち出しました。韓国の現状はどうなっているのでしょう。

日本の大学入学共通テスト(昨年度までの大学入試センター試験)に相当する一斉試験は、韓国では「大学修学能力試験(修能)」と呼ばれます。この試験を使った入試は「定時募集」といい、20年は12月3日にありました。遅刻しそうな受験生をパトカーで会場まで送り届けるなど社会全体として受験生を手厚く支える姿は、日本でも話題になるので、ご存じのかたも多いのではないでしょうか。

しかし、大学修学能力試験を受験して大学に入るのは、実は少数派です。中央日報によると、21年度は全大学入学者の23%だけ。多数を占めるのは、日本の総合型選抜と類似している「随時募集」という制度による入学者で、こちらが全体の77%を占めています(表1参照)。

大学入試における「随時」「定時」募集の割合(%)
大学入試における「随時」「定時」募集の割合(%)

――日本の先を行っていますね。それでうまくいっているのですか。

定時募集は1点刻みの一発入試で、「都会に住み、優秀な講師のいる塾に通える生徒に有利」「受験科目ではない授業は手を抜く」「注入式(詰め込み式)の暗記教育を助長する」といった批判がありました。こうした弊害をなくすため、随時募集による選抜では、高校時代の学習の成果を記録した内申や、勉強以外の活動成果などを記録した学習履歴(ポートフォリオ)を提出します。生徒の主体性や今後の可能性を含めてみるのが狙いですが、実は随時募集にも多くの問題点や課題があると指摘されています。

――問題点や課題、ですか。

随時募集は明確な合格基準が分からないため、受ける側はどこまで準備しても安心できません。このため、過剰な実績競争を引き起こしているという批判が出ているのです。

「ボランティア489時間」「サークル活動374時間」「校内受賞実績108件」……。これは、ソウル大学校の随時募集で合格した学生が記した高校時代の実績です。高校3年間、常に大学入試を意識し、活動歴を積み上げ、エピソード作りに時間を費やすことへの負担感、圧迫感は大きいものがあります。

入賞歴を書くため、学内外のコンテストなどに論文を出す際に予備校講師が代筆するケースもありました。20年10月に摘発されたケースは、30万~50万円で請け負っていたそうです。

こうした批判を受け、ポートフォリオに記される内容のうち、大学の入試判定で使える項目は徐々に減らされることになっています(表2参照)。

ポートフォリオの非教科領域「学生生活記録簿」
区分 2022~23年度 2024年度以降
自律活動 【学内】自治会、委員会、学校行事活動など
サークル活動 公式な課外活動
新聞製作、自発的な課外活動、社会団体などでの体験活動 ○(年間一つ以内) ×
ボランティア 【学内】環境整備などの学校内の奉仕活動
【学外】学校外での各種奉仕活動 ×
進路活動 インターン、企業見学など
受賞歴 【学内】各種大会、コンテストなどの受賞歴 ○(六つ以内) ×
【学外】各種大会、コンテストなどの受賞歴 × ×
読書活動 読書記録、読書感想文など ×

韓国教育部の資料より春木育美さん作成。○は、大学入試の判定に反映されるもの。

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