『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

英文学者の阿部公彦・東大教授に聞く英語上達の秘訣 「英語特有の時間の流れ方を学ぶこと」 

2021.02.18

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桜木 建二
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前回、英文学者の阿部公彦・東大文学部教授に、日本人が英語を身につけるには、「英語を使う環境に意図的に身を置くこと」といった言葉をもらった。日常的に英語を使う必要性が少ない日本社会だが、英語と接する環境が足りていないということのほかに、もうひとつ困難がある。日本語を第一言語とする人にとって英語はなかなかすんなり頭に入ってこないもの、というのもまた事実のようなのだ。そのギャップをいかにしっかりととらえ、克服し、あるいは逆手にとって活用するか――。引き続き、阿部さんの言葉を聞こう。

英語は音の強弱のコンビネーションで表現する言葉

「英語と日本語では、言語としての構造がいろいろと異なりますから、馴染むのに時間がかかるのはたしかです。とくに音声面での違いは大きい。まあそれは違う言葉なのですからあたりまえですし、『こんなに違うのか、おもしろい!』という観点から英語と付き合おうとするしかないでしょう」

日本語が母語の私たちに英語を習得しろだなんて……、その時点ですでに不利に決まっているじゃないか!と憤っていてもしかたがない。違いをおもしろがる度量を持つべきなのだな。

日本語の話者が英語を習得しようとするときには、音声の違いが大きな壁になってしまうと、阿部さんは教えてくれたぞ。

「英語は音声のつくり方が、日本語と根本的に異なるんですよ。英語は音の強弱を使ったストレスアクセントによって言葉を表現しています。強い音がくるところと、こないところのコンビネーションを使って流れを生み出していき、音の違いを弁別します。

対して日本語は、音の高さと低さを組み合わせることで表現をしている。それで同じ響きなのに『橋』と『箸』を区別できるのです。

毎日聴いて、英語特有の音声リズムを叩き込もう

また英語は、音の強弱で言葉にリズムをつけています。これは音楽で考えるとわかりやすいですよね。

ビートの利いたロックやポップス、ダンスミュージックが英語の歌詞と相性がいいのは、言葉の特性から考えてもよく理解できます。連続感が大事なのです。

では日本語にはリズムはないのか。そんなことはありません。

俳句や短歌、ことわざなんかもそうですが七五調とか八六調に整えるとたいへん聴きやすかったりするように、音節の数の調整でリズムを刻みます。文章を読んでいても、文の長短で効果が生み出されることが多いです。

日本語にも、なんとなくリズムがいいと思える言い回しは確実にありますね。この感覚、日本語話者じゃないとなかなかピンとこないもののようです。

日本語を勉強する人は、そうしたリズム感も含めて学ぶわけです。音節の数のバランスに脳が自然に反応できるようにと。

英語を学ぶ人も、同じことをしなければならない。英語特有の音声の刻み方を理解して、独特のリズムに慣れようとする練習が必要になるのです」

英語のことわざや詩、演説に触れてリズムを体得する

日本語と英語では音声の出し方、聞き取り方に違いがある。そこを理解し、慣れていく必要がある。それが英語習得のひとつのポイントだと阿部さんは教えてくれた。

「強い音と弱い音をどう組み合わせてリズムをつくるかによって、聞こえやすい英語・聞きづらい英語は分かれます。英語話者の人は身体的にそれがわかるわけですね。これはノレる話し方だとか、どうも間が悪いな、と。

たとえば英語ではしゃべっていると、強勢と強勢の間がだいたい一定のペースになる。それが英語の呼吸なのです。

だから、話を展開するときにも、いろんな例を並列させて、タンタンタンとならべるといったしゃべり方になったりする。そうした微妙な感覚は小さいころからの体験で身体に染み付いていくもの。

そういう体験を経ていない英語学習者は、意図的にリズムがいい英語に触れたり口ずさんだりするのがいいでしょう。

たとえば英語の決め台詞やことわざ、名句などに多く触れておけば、どんなふうに言葉をならべると耳に響き、心に残る言い方になるかが体感でわかるでしょう。

古典ももちろんいいけど、人気ドラマやアニメだって、よく練られたセリフが出てくるはずです。かつては受験勉強の中に英語のことわざや名文句を覚えるということもあったと思いますが、「そんなもの実用性がない」と言われて最近はあまり流行らないようです。

たしかに、ことわざを丸暗記することで人生の選択の役に立つとか、会話で使えるといったことはあまりないでしょう。そういう意味での「実用性」は低い。

しかし、英語のリズム感や語りの作法を身につければ、英語的な感覚が身につく。より深い部分、芯の部分を鍛えることができます。これは英語圏の子どもたちが教養として身につけているものでもある。

目先の「実用」にとらわれることのない、芯の部分を意識した語学教育が必要です。英語の童謡や簡単な詩を読むだけでも、リズムを実感するには効果的です。子守歌でもいい。

もし韻文がハードルが高いなら、簡単な英語の演説や、ドラマの名場面に触れてみるというのもいいでしょう。しばらく耳を傾けていると、リズムの心地よさにきっと気づくと思いますよ。

いい演説は必ずいいリズムを刻んでいて、それによって高揚感が醸成されているものです。

SNSで「バズっている」投稿も一見の価値あり

英語で投稿されたSNSの文章を探してみるのだっていい。

波及効果のある、いわゆる『バズっている』投稿というのは、きっとリズム感のいい言葉が使われています。言葉の響きの効果の絶大さと重要性に気づくきっかけになるのでは」

なるほどどうやら生きた英語をたくさん摂取して、言葉としての躍動感に触れるのが、学習としては効果的ということのよう。

「そうですね、どんな言語も実際に使われているときは、ひとつの『運動』としてあるのだと思います。

言葉はつねに動いているものとして人に体験される。ですから英語を習得するということは、すなわち英語特有の時間の流れ方を学ぶのだということを、意識しておくといいでしょうね」

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