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世界遺産のど真ん中で「どう生きるのか」を突き詰める 高野山大学密教学科

2021.02.17

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大室 みどり
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平安初期、弘法大師空海は唐に渡って密教を学び、帰国後、和歌山県にある高野山を真言宗(真言密教)の総本山とした。開闢(かいびゃく)1200年以上の歴史を誇る聖地を舞台に、仏教学の中でも世界に類を見ない「密教学」を学べるのが、高野山大学文学部密教学科だ。(写真提供/高野山大学)

高野山とは一つの山の名称ではなく、標高1000メートル級の峰々に囲まれた山上盆地のこと。大自然に抱かれた祈りと修行の場は、「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として、世界遺産にも登録されている。

 そのほぼ中心に位置する高野山大学の公式インスタグラムには、意外な言葉が並ぶ。「秘密すぎる大学」「曼荼羅(まんだら)映え」「仏ジェニックな瞬間」……型破りなイメージ戦略の理由を松長潤慶教授はこう話す。

 「お坊さんになるための厳しい大学という固定観念を壊したい。本学の密教学科には寺院に生まれた人や僧侶を志す人だけでなく、家庭環境や友人関係などさまざまな悩みの答えを探しに来る人もいます

高野山大さしかえ
松長潤慶教授。「価値観が多様化する時代だからこそ迷いも多い。それでも、人として何が必要で何が最も大切なのかという原点は変わりません。人の幸せとは何かということを訴えていきたい。悩みを抱えている若い人たちにぜひ密教学科の門を叩いてほしい」と語る

なぜ生きているのか、どう生きるのか

 1学年は平均25人で、寺院出身の学生とそれ以外の学生の割合は半々だという。女子学生、留学生、社会人学生も学ぶ。高野山の寺院に住みながら大学に通う「寺生(てらせい)」もいる。

 「密教には『融通無礙(ゆうずうむげ)の曼荼羅』という世界観があります。この世に存在するものすべてに価値があり、生きとし生けるものは、無限のネットワークによって結びつき、その関係性の中で互いに生かされているという考えです。密教学科では空海の教えに直接触れながら、『なぜ生きているのか』『自分はどう生きるのか』という根源的な問いを追究します

 学生たちは経典や空海の著作を原典で読解するほか、仏教や密教の歴史、「声明(しょうみょう)」と呼ばれる仏教音楽、書道、漢文、サンスクリット語、英語、法話の創作、仏事の作法なども習得する。なかでも2年次の必修科目「祖典講読」が重要だと語るのは土居夏樹准教授だ。

 「空海の著作『即身成仏義(そくしんじょうぶつぎ)』を1年かけて精読します。仏とは悟りを開いているだけでなく、迷い苦しんでいる人々を導き救おうとする存在。私たちは今この瞬間に、この身のままでそうした存在になることができるというのが空海の唱えた『即身成仏』です。密教のエッセンスが詰まったこの本は、現代を生きる人間にとっても一つの指針となりえます」

 選択科目には「加行(けぎょう)」と呼ばれる修行もある。僧侶志望者は、専用道場での計100日間におよぶ「四度(しど)加行」という厳しい修行の後、秘儀「伝法灌頂(でんぽうかんじょう)」を経て僧侶の資格を取得。その後さらに専門科目で奥義を学ぶ。 

土居夏樹准教授。「空海自身がそうであったように、密教や仏教の教えを学ぶなかで人生の根幹になる部分を自分なりに見つけてほしい。宗教家、教育者、事業家とマルチに活躍した空海について学ぶ体験は、僧侶以外の道に進んでも必ず応用が利きます」と話す
土居夏樹准教授。「空海自身がそうであったように、密教や仏教の教えを学ぶなかで人生の根幹になる部分を自分なりに見つけてほしい。宗教家、教育者、事業家とマルチに活躍した空海について学ぶ体験は、僧侶以外の道に進んでも必ず応用が利きます」と話す

天空の宗教都市でグローカルな交流

 歴史と文化が息づく高野山には、国や宗教を超えて世界中から人々が訪れる。松長教授は「山の上は国際的」と語る。

 「今はコロナの影響でストップしていますが、高野山には欧米を中心に非常にたくさんの観光客がいらっしゃいます。小さな町ですので、学生たちは自然と世界中の方々と交流することになります。また、密教はインドで興り、陸と海の二つのシルクロードを経て中国へ伝わり、空海によって日本にもたらされました。海外の研究者と共同し、空海の思想のルーツを探るプロジェクトも進んでいます」

 地域社会とのつながりも密接だ。

 「高野山では1年を通してさまざまな行事が行われていて、学生たちも参加します。たとえば空海の誕生日にあたる6月15日の『宗祖降誕会(しゅうそごうたんえ)』では、町の人たちと一緒にねぶたを作ってお祝いしますし、9月には僧侶が学問研鑽のために問答を繰り広げる『勧学会(かんがくえ)』のお手伝いをします」(土居准教授)

 さらに、高野山の入り口まで走る南海電鉄が企画するイベントに参加する機会もある。近年は、僧侶の資格を持つ学生が山を登るケーブルカーの車内で法話を行ったり、高野山をガイドしたりして観光客をもてなした。

昨年12月21日に執り行われた「教職員ならびに先輩物故者追悼法会(ほうえ)」。亡くなった教職員や先輩を供養するとともに、学内安穏と在学生の学業成就が祈念された。学生たちも動きを合わせて経を読み歩く「行道(ぎょうどう)」に参加
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