わが子を算数・数学嫌いにさせない習慣

オウムの暗唱ではなく「1対1の対応」から整数を教える

2021.04.13

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芳沢 光雄
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算数や数学は、公式や定理や解法を丸暗記し、数字を当てはめて正しく計算できれば、正解にたどり着ける――。パターン化した入試対策の弊害か、受験生はそんな「暗記数学」のわなに陥りがちです。人工知能(AI)が急速に普及するなか、今後求められるのはどんな算数・数学の力でしょうか。数学者で、小学生から大学生まで幅広く数学の面白さを教えてきた桜美林大学リベラルアーツ学群の芳沢光雄教授が、苦手意識を捨てきれない親世代に向け「AI時代に必要な数学力」を説きます。(タイトル画:吉野紗月)

整数を知らない子にもできる「別解」

たくさんの男の子と女の子がいるとき、「男子の方が多いか、女子の方が多いか、それとも同数か」という質問をしたら、子どもはどう答えるだろうか。男子と女子の人数をそれぞれ1、2、3……と数え、合計を比較するという答えが多いかもしれない。でも、そんなことをしなくても、たとえ整数を知らない小さな子でも、この問題を解く方法がある。お分かりだろうか。

筆者は1978年から10の大学で約1万5千人(文系・理系は半々)を対象に、数学の授業をしてきた。90年代半ばからは、数学嫌いの改善を主な目的として、全国の小・中・高校などで約1万5千人を対象に出前授業もしてきた。

本格的なAI時代を前にして、経済産業省や経団連などからも数学の重要性や数学教育の充実を訴える提言が出されているが、それらに応える動きはほとんど見られない。その背景を考えると、二つの大きな問題に直面する。

一つは、かつて「算数・数学は、最後の答えが合っても途中の式をしっかり書かなくてはダメ」と散々言われたのに、最近は「最後の答えさえ当たれば、それでよいのではないか」というプロセス軽視の風潮が高まり、「理解無視のやり方、暗記だけの学習」が盛んになって、負の側面がいろいろ表面化していることだ。もう一つは、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)でも発表されているように、以前から日本では「数学は嫌いで役に立たない」と思う青少年の割合が極めて高いことである。

筆者は昨年末に、AI時代の数学の学び方の指針となる書『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)を出版した。「理解せず暗記だけの学習」は、暗記した定理や公式を忘れると手も足も出せなくなるばかりでなく、応用力や発想力が全く育まれないこと。さらに、理解して楽しく学ぶ題材がなければ、嫌々学ぶことはあっても、前向きに学ぶことはないこと……等々を小・中・高の各段階に応じて丁寧に説明した。

本連載は、上で述べたことが背景となって始まるものである。暗記ではなく数学的に考える楽しさをまずは親に理解していただき、それを子どもに伝えるきっかけになればと願っている。

さて、冒頭の問いの「別解」を示そう。男子と女子が一人ずつ手をつないでもらえれば分かるのである。余った方が多く、余った人がいなければ同数である。

そもそも数学は、もっとも客観的な「数」があって成り立つ。整数が誕生する前は、「1対1の対応」の概念を応用したトークンと呼ばれる粘土細工によって、個々の物品を管理していた(B.C.8000~B.C.3000年頃)。男女が手をつなぐことで人数の多い・少ないが分かるという発想こそが、整数を知らない子どもにも応用できる「1対1の対応」の概念である。小さい子どもに整数を最初に教えるとき、単に「イチ、ニ、サン、シ……」と鳥のオウムに暗唱させるような教え方では無意味である。同じ「3」ならば、たとえば3つの茶碗と3つの皿と3つのスプーンを用意し、それらはどれも「1対1の対応」がつくことを示して、「3」を教えるのがよい。

いつか「1対1の対応」を用いて、犬に整数を教えたいという夢をもつ。

「1対1の対応」から整数を教える
イラスト:瓜田時紀

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