学習と健康・成長

子どものクリティカル・シンキングを育むには 保護者のリアクションが考える力を伸ばす

2021.04.23

author
夏野 かおる
Main Image

コロナ禍で「フェイクニュース」の恐ろしさが浮き彫りになりました。複雑さを増すこれからの社会においては、「情報を鵜呑みにせず、批判的に考える力(クリティカル・シンキング)」がますます重視されるでしょう。一方、クリティカル・シンキングは「批判=否定」と誤解されがちな一面も。今回はクリティカル・シンキングの本質的な意味や重要性、その育み方について専門家に伺いました。

Yuko_Sugawara

話を聞いた人

狩野 みきさん

「自分で考える力」イニシアティブ

(かの・みき) THINK-AID 主宰。慶應義塾大学、東京藝術大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師。慶應義塾大学大学院博士課程修了。20年以上にわたって大学等で考える力・伝える力、英語を教える。著書に『世界のエリートが学んできた 「自分で考える力」の授業 [増補改訂版]』(PHP文庫)『プログレッシブ英和中辞典』第5版(小学館)など。

多様化する社会を「考える力」でハッピーに

——そもそもクリティカル・シンキングとは、どんなものでしょうか?

最もコアな部分を申し上げると、「自分の頭で納得がいくまで考えること」です。なぜその選択をするのか、なぜそのような意見を持ったのか。その根拠を明確にし、自分が納得できるまで思考を掘り下げるのがクリティカル・シンキングです。

——なぜ今、子どものうちからクリティカル・シンキングが重要視されているのでしょうか?

誤解を恐れずに言えば、これまでの教育が行き詰まりを見せているためでしょう。

従来の教育では、ひとつの正解をなるべく早く叩き出すことがゴールとされました。想定するキャリアも直線的で、よい成績を修め、よい大学に入り、よい就職をし、よい結婚をするのが理想だったわけです。

ところが、時代は変わり、こうしたキャリアが必ずしも幸せには結びつかないのではないか、という疑問が出てきました。国としては豊かになったけれど、自己肯定感が低く、幸せを感じづらい子どもが多い、という問題が露わになったのです。

そこで打ち出されたのが、「考える力(クリティカル・シンキング)の育成」を盛り込んだ新学習指導要領です。キャリアの幅が広がり、外国の方とともに働く場も増えてきた現代において、自分がどう生きればハッピーになるのかを考える力を養ってほしい。そんな思いから、「自分の頭で納得がいくまで考えるスキル」であるクリティカル・シンキングや、思考をより深めるための議論のスキルが重要視されるようになってきたといえます。

——一方で、クリティカル・シンキングは「なんでも否定すること」と誤解されているように思います。それはなぜでしょうか?

大きく3つの原因が考えられます。1つ目は、「批判的思考」という訳語。「批判」というと、何か相手を攻撃するようなニュアンスがあるように感じる方もいるかと思います。そのため、原語となる「critical」が持つ、「事の是非を判断するために、注意深く考え、分析する」という意味が伝わりづらいのです。

2つ目は、日本にクリティカル・シンキングの概念が入ってきた経緯。アメリカでは「読み・書き・そろばん」に次ぐスキルとして位置づけられるクリティカル・シンキングですが、日本では長らくビジネスパーソンに向けた実用スキルとして教えられてきました。

こうしたイメージがあるため、少し前の時代ですと、「子どものうちからクリティカル・シンキングを身につけよう」などという主張は到底受け入れられませんでした。実際に私も、「我の強い子どもに育つのでは」といったリアクションを受けた経験が多々あります。

3つ目は、日本の「言葉にしない」文化の影響。少し前に「忖度(そんたく:他人の気持ちを推し量ること)」という言葉が流行しましたが、一般に日本のコミュニケーションは受信者側が大きな責任を持ちます。発信者はすべての内容を言葉にしないため、受信者は推察などして「言葉にされなかった部分」を穴埋めしていくのです。

一方、クリティカル・シンキングは議論に重きを置くため、言葉で意見を表明し、言葉でフィードバックを受けることになります。ただでさえ「言葉にすること」に慣れていないのに、質問されたり、反論されたりすると、抵抗感を持つのは当然のことです。

知っていただきたいのは、欧米人だって、反駁(はんばく:他人の主張や批判に対して論じ返すこと)されて気分がいいわけはないのです。けれども、言葉で議論する素地が培われているから、過剰に傷ついたり、神経質になったりすることはない。要は慣れの問題ですから、小さなうちから基礎を養っておくことが大切です。

新着記事