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大学入試センター・荒井克弘客員教授「共通テストの作問体制は抜本的に変わった」

2021.04.30

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中村 正史
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「学力の3要素」を改革の柱に実施された最初の大学入学共通テストは、問題形式が大きく変わったにもかかわらず、平均点は意外に高い結果に終わりました。思考力より、読解力や情報処理能力を問われたという声も高校現場などから聞かれます。大学入試センター試験の問題作成にかかわってきた荒井克弘・大学入試センター客員教授は、試験の性格が本質的に変わったことを指摘します。(写真は初めての共通テストに望む受験生)

荒井克弘さん

話を聞いた人

荒井克弘さん

大学入試センター客員教授

(あらい・かつひろ)東京工業大学理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は高等教育研究。広島大学大学教育研究センター教授、東北大学教育学部長などを経て、2009年から15年まで大学入試センターで教授、試験・研究統括官、副所長を務めた。

思考力測るはずなのに意外な結果

――第1回の共通テストの問題内容を見て、どう思いましたか。

試行テストの問題(形式)に似ているなと感じました。大学入試センターに常勤していた時に問題作成にかかわりましたが、その際に作問は「シンプル・イズ・ベスト」だと学びました。受験生が即座に問題を把握でき、すぐに解答を始められるのが一番大事で、その観点からすると、共通テストの問題はだいぶ余分なものがあります。

問題文の分量が多くて、最後の解答までたどり着かなかったという受験生の話も聞きます。また、資料やデータにこだわりすぎて、そのために細部へ入り込みすぎた問題も見受けました。しかしそれでも、テストの点数は悪くありませんでした。多くの科目の平均点が60点を超え、むしろセンター試験の頃に比べて高い点数だった科目も多い。問題が素直だったのでしょう。時間が足りなくて考える時間もなかったのに点数が高いのは、「思考力を測る」というアピールとはだいぶ違う、意外な結果です。

――大学入試センターの報告書「『センター試験』をふり返る」(2020年12月)や、『大学入試がわかる本』(中村高康編、岩波書店、20年9月)の中で、共通テストは高校寄りになったという趣旨のことを書いています。

誤解している人が多いのですが、共通試験は入学者選抜に使われる資料ですから、共通1次試験もセンター試験も大学入試センターが問題を作っているのではなく、大学教員が問題を作ってきました。

大学の専門知識は新陳代謝が激しく、常に進行形であるのが普通です。それに比べて高校科目は完成度が高く、成熟した知識が多くなります。誤解を恐れずにいえば、高大接続は教育と研究を結びつけるような作業に近いともいえます。

文部科学省と大学入試センターは今回の改革のために、問題作成体制に「抜本的改革」を施しました。その一つが「試験問題調査官」の導入です。新しい専任ポストが多数つくられ、そこに全国の教育委員会から指導主事クラスのベテランが集められました。高校での教科指導の経験があり、教育委員会で行政経験も積んだ人たちです。彼らの職務は、高校教育の現場の様子を伝え、学習指導要領の注釈をすることです。

実際、今回の共通テストに出題された中で新傾向と呼ばれる問題には、彼らの貢献が大きかったはずです。

――それは、ほとんど知られていないことです。

大学入試センターはこれまでも高校関係者と積極的な交流、意見交換を重ねてきました。センター試験問題の点検やその外部評価のために、多くの高校関係者に協力を求めてきました。外部評価の際には、科目部会との面談も行っています。しかし、問題作成の科目部会に高校関係者を常駐させることは、実習科目を除いて、したことはありませんでした。

情報漏洩(ろうえい)を心配したのかもしれませんが、むしろ、共通試験は大学入試の一環だという矜持(きょうじ)によるものだと推察されます。実施主体が代わってしまえば、共通試験の性格が「大学の試験」でなくなるのは当然です。単なる高校教育の到達度試験になり、もはや高大接続のための試験ではなくなってしまいます。

試験問題調査官は科目部会に1~2名ずつ配置されている、と聞いています。現在の出題科目は30あり、各科目の部会とも20人程度の大学教員で構成されています。科目部会の規模からすると、試験問題調査官は少ない人数ですが、部会の大学委員が作業に従事できるのは最大でも50日が限度であることを思えば、常勤の調査官のマンパワーは決して小さいとはいえません。

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