『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

山口周さんが説く「混迷の時代を生き抜く指針」

2021.05.17

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桜木 建二
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「教育改革も揺れるいまこそ、美意識を磨け!」――。
前回、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周さんに、我が子の才能を伸ばすには「好きこそ物の上手なれ」といった姿勢が、教える側にも学ぶ側にも大切だとの言葉をもらった。
混迷するいまの時代を生き抜くためには、なにが必要なのか。さらに山口さんに伺った。

AI×ロボット技術の台頭で、学歴社会にもメスが

日本の教育制度は、なかなかしっかり成果を挙げている。まずはそれを認めるところから始めたい。

そう山口さんは話す。ただし、時代に合わせて方向性は修正していく必要があるとも。

そもそも日本の教育制度は、根幹の制度設計が明治時代に成され、戦後に現行のかたちが出来上がった。

7歳になる年に小学校へ入り、きっちり配分された時間割に沿って集団で同じ学習内容が授けられる。

習熟度は一律の試験によって測られ、成績順に進学先、さらには就職先も決まっていく。

機会の平等を担保したうえでの学歴社会が、しかと確立されたのだった。

この教育・社会制度は、勤勉で優秀な労働者を大量に育てたいというねらいから築かれたものだった。

「高度経済成長社会を支えるインフラとして、この制度は非常に効率よく機能してきました。

それで戦後まもないころから最近まで、数十年にわたって変更を加えずにそのまま用いられてきたわけです。

ただ、ここへきてさすがに、そのままでは立ち行かない事態が生じてきました。

きっかけは、テクノロジーが進展し、人工知能が本格的に社会に組み込まれてきたことにあります」

人工知能(AI)とロボット技術の組み合わせは、辛い労働を機械に肩代わりさせようとしてきた人類の「進歩」の歴史を急激に加速させた。

人の労働が機械へと置き換わるペースは、このところ極端に速くなっている。

勤勉で均一な能力を持つ労働者は、もうそれほど大量に必要とされなくなってきたのだ。

これにより、戦後長らく維持されてきた日本の教育・社会制度も、さすがに見直しを迫られるようになってきたわけだ。

学歴順に企業が新卒一括採用をするという習慣がずっと続いて、世の中に出るときは偏差値の高い大学にいたほうが圧倒的に有利というシステムはかなり強固だったが、それも時代とともに揺らいでいるのが現状なのである。

詰め込み教育の知識はAIに敵わない

学歴が生涯年収や地位の安定を生むというのが、戦後の日本のメインシステムであり続けた。

その根っこが変わらないかぎり、どんなに学校で創造性を養えだの、これからは情緒教育が重要だなどと言っても、受験勉強に特化する詰め込み型の教育方針は変わらないように見えた。

だがいま、時代の変化が、システムの変更を促し始めている。

AIが世の中に広まり、人間の労働と仕事はどんどん機械に置き換えられるようになってきたのだ。

それにより、均一な労働者を育む目的で制度設計された教育のみを受けた人材は、仕事や居場所を見つけづらくなっている。

「では、どうしても機械には置き換えることのできないこととは何か。最終的に残る仕事とはどういうものか。

考えてみるに、おそらくは『遊び』と『創造』しかないでしょう」と山口さんは見ている。

「それが人間に残された最後の仕事だということになれば、教育のカリキュラムも、AIと競合する部分はある程度捨てて、遊びや創造の力を伸ばすものへと、時代に則して見直していかなければならなくなるでしょう」

たしかに、いまやいくら知識を詰め込んで、単純なクイズ形式の知識を豊富にしたって、記憶能力において人間はAIに敵いやしない。

「与えられた問いに上手に答える能力」は価値にならない時代

ならばどうすればいいのか。「遊び」や「創造」は、どう養えばいいのか。

そもそもそのあたりは、教育によって育めるものなのかどうか。

「ものさしを代える必要がありますね。

これまでの学校教育は、与えられた問題に対していかに素早く正確に答えを導き出すか。そのパフォーマンスを競っていた。

問題は先生が与えてくれるので、それにいかに反応するかが勝負だった。

けれどこれからの時代は、上手に解答することが価値にならなくなるというわけです」

ものさしを代える、つまりは価値観の転換が求められているのだ。

どういうことか。

AIに解かせる問いをつくることが人の仕事になる

与えられた問いにうまく答えるだけでは、価値を生まないようになってきているのだと、山口さんは時代の変化を説く。その真意は?

「問いに答える作業はこれからの世の中にももちろん必要ですが、それはAIの得意分野。

人間よりずっと速く正確にこなしてくれますから、どう考えても任せたほうがいい。

ならば人は何をするか。問題をつくる側に回るしかありません。

AIに解かせる問いを生み出すのが、これからの人の役割であり仕事となるのです。

自分で問題をつくらなくてはいけない時代には、これまで学校のなかで評価されてきた『問いに素早く正確に答える』優秀さが、意味をなさず通用しなくなっていきます。

学力・学歴の高さと、世の中が求める能力のズレが、大きくなっていく懸念はありますね」

好きなことやりたいことに突き動かされ、問いを生みだす人になろう

これから人が真に求められるのは解答能力ではなく、「問いをつくる能力」となれば、では問いをつくる力を養うにはどうすればいいのか。

「遊び」と「創造」の心を忘れず、駆使できる人が強いだろうと山口さんは言う。

「『これをしていると、とにかくワクワクする!』といった内発的な動機があると、問いは自然にどんどん湧いてくるものですよね。

好きなことがあり、やりたいことがあり、自分の足でどこまでも歩いていける人が、これからの時代には活躍できるんじゃないでしょうか」

「あなたは何がしたいですか?」と聞かれたら喜々として答え、自分の好奇心に駆動されてどこへでも出かけていっては問題を投げかける。

そんな人間像がこれからの時代のひとつの理想であり、そうしたたくましさを養うのがこれからの教育の目指すところなのだな。

(山内宏泰)

     ◇

連載は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

山口周さんが説く「混迷の時代を生き抜く指針」
山口周

話を聞いた人

山口周さん

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー

1970年、東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。慶應義塾大学文学部哲学科を卒業後、同大学院文学研究科修士課程を修了。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定や文化政策、組織開発などに従事した後に独立。著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)はビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)、「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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