学びを「科学」する
ベネッセ・木村治生さん「学習時間より『学習方略』が成績に影響する」
2021.05.25

学業成績は学習時間の長さによって決まるのでしょうか、それとも別の要因があるのでしょうか。教科の好き嫌いと成績にはどのような相関関係があるのでしょうか。学業成績には何が影響するかを調査した、ベネッセ教育総合研究所主席研究員で東大客員教授の木村治生さんに聞きました。(写真は、全国学力調査を受ける東京都内の中学生=2018年)
(きむら・はるお)2000年、ベネッセコーポレーション入社。子ども(乳幼児~大学生)、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。専門は社会調査、教育社会学。21年度から東京大学客員教授。
学習時間と成績との相関は強くない
――「部活動と学習時間」について取材した際(記事はこちら)、そもそも学習時間と成績にはどういう関係があるのかが気になりました。『子どもの学びと成長を追う』(勁草書房、2020年9月刊)の中で、学習時間と学業成績との相関を分析していますね。
成績を上げたいというのは、多くの児童・生徒や保護者が願うことです。成績とは学習成果である知識・技能や思考力などをテストや入試で測定するものですが、何が成績に影響しているのかを考察しました。
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は、全国の小学1年生から高校3年生までとその保護者の約2万組を対象に、2015年から「子どもの生活と学びに関する親子調査」を行っており、18年調査のデータを用いました。学習時間は、宿題、宿題以外の家庭学習、学習塾の三つに分けて学年ごとの推移を見ました。成績は、小学生は国語、算数、理科、社会の4教科、中高生は国語、数学、理科、社会、英語の5教科について、「上のほう」から「下のほう」まで5段階で自己評価してもらいました。
学習時間は、受験に直面する中3と高3で増えます。宿題の時間は小5以降、高3まで平均50分程度で変わらず、受験期に増えるのは家庭学習と学習塾の時間です(グラフ)。

成績との関連を小5、中2、高2で見ると、宿題の時間は小5、中2では関連はなく、高2では成績上位層ほど宿題の時間が長いものの、宿題以外の家庭学習の時間の方が成績との関連がはっきりわかります。上位層ほど家庭学習の時間が長くなっています。
ただ、学習時間と成績との相関は、統計的には有意ですが、関連は強いとはいえません。一定の量の学習をしないと成績は伸びませんが、やみくもに学習時間を延ばすのは効果的でないことが科学的に見えています。
――学習時間と成績との相関は弱いということですか。
学び方(学習行動)は、学習の量である学習時間と、学習の質である学習方略から成り、いずれも成績に影響しています。分析してわかったのは、学習方略の方が学習時間よりも成績との関連が強いことです(グラフ)。

学習方略については、「遊ぶ時は遊び、勉強する時は集中して勉強する」「テストで間違えた問題をやり直す」「計画を立てて勉強する」「自分に合った勉強のやり方を工夫する」など9項目を尋ねました。あくまでも相関関係ですが、学習成果を上げるためには、学習の仕方を工夫することが重要だということがわかります。
――中学や高校などではよく、「学年プラス1時間勉強しなさい」と、学習時間を重視しています。
成績との関連は学習方略の方が強いですが、学習方略が十分に発揮されるためには一定量の学習時間があることが前提です。また、学年が低いほど学習時間の効果が強く表れます。このように子どもの発達によっても違いがあり、小さいうちは学習習慣を定着させることが重要です。しかし、学年が上がればそれだけではダメで、学習方略を身につけていく必要があります。
学校の成績を縦軸、学習時間を横軸に取って4分割した図にすると、「学習時間が短くて成績が悪い」32%(左下)、「学習時間が長くて成績がいい」25%(右上)が多いのですが、A「短時間の学習でいい成績を上げている」21%(左上)、B「長時間学習しているのに成績が悪い」22%(右下)がいます。AとBの学習方法を比較すると、9項目の学習方略のうち、「何がわかっていないか確かめながら勉強する」「自分に合った勉強のやり方を工夫する」「問題を解いた後、ほかの解き方がないかを考える」などの方略で差があります。学習の仕方と成績には一定の関係があり、学習の仕方を考えることが大事です。