「1人1台」の生かし方

ゲームで学力は低下する? 大規模調査で「1日1時間以内ならむしろ好成績」

2021.07.01

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葉山 梢
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子どもがゲームばかりして勉強しないという悩みを持つ保護者は少なくありません。ゲームをすると学力に悪影響があるのでしょうか。ゲームと学力との関係について大規模調査を実施した慶応義塾大の田中辰雄教授に聞きました。

田中辰雄

話を聞いた人

田中辰雄さん

慶応義塾大学教授

たなか・たつお/1957年、東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。 国際大学グローバルコミュニケーションセンター研究員、コロンビア大学客員研究員を経て、慶応義塾大学経済学部教授。専門は計量経済学。デジタル化が社会や経済に及ぼす影響を研究。著書に「ネットは社会を分断しない」「ネット炎上の研究」(いずれも共著)など。

中学生の6割は1日1時間以下

テレビゲームやパソコン・スマートフォンのゲームと学力の関係を測定した調査の多くは、プレー時間が長い子どもの成績は悪いという結果が出ています。たとえば2008年の全国学力調査の追加分析では、小学生・中学生ともに、ゲームの時間が増えると学力テストの成績が下がっています。

しかし、慶応の同僚や学生たちに聞くと、みんなゲームをやっていたといいます。これはどういうことなのだろうかと考えました。

精査したところ、これまでの調査にはいくつか問題がありました。一つ目は、プレー時間の聞き方が粗すぎることです。多くの調査が平日のプレー時間を尋ねているのですが、選択肢は0時間の次が1時間で、それ以降も1時間単位で3~4時間までとなっています。しかし、平日に2時間以上プレーする子どもは少数派です。平日に長時間ゲームをすれば勉強時間を確保できず、成績が下がるのは当然でしょう。親が心配しているのはそうした極端な例ではありません。平日のプレー時間はどの程度までなら影響がないのか、というもっと少ない時間領域での話なのですが、既存の調査はそうした思いに応えられていませんでした。

二つ目の問題は、当事者の子ども自身に聞いていたことです。日常的に親からゲームのやり過ぎを責められている子どもは、匿名の調査でもプレー時間を正直に答えたくないという思いに駆られ、正確な調査結果が出ない恐れがあります。

三つ目は、既存の調査で分かるのは短期的な影響だけという点です。ある学期に長時間プレーすれば、その学期のテストの成績が下がるのは当然です。しかし、親がより気にしているのは、受験のような長期の影響ではないでしょうか。

こうした問題を解消するため、私たちの調査では、高校受験を経験した15~69歳の約1万4千人を対象に、中学時代にどれくらいゲームをしたかを思い出して答えてもらい、その人の高校進学実績と比較する形にしました。プレー時間についても、0分の次は15分、30分、1時間、1時間半と時間が少ない領域の目盛りを細かくしました。

その結果、中学時代にゲームをしていた人は5割ですが年代差が大きく、22歳以下に限ると8割に上りました。平日のプレー時間は1時間以下が6割を占める一方、2時間以上というヘビーユーザーも3割いました。

下のグラフは、中学時代のゲームのプレー時間別に、偏差値60以上の高校に進学した割合を示しています。ゲームで学力が低下するのであれば、プレー時間が増えるほど進学率が下がるはずです。けれど、プレー時間が15分と30分の人たちの進学率はゲームをしなかった人より高く、プレー時間が1時間の人でもゲームをしていない人と同程度でした。つまり、平日のプレー時間が1時間までなら、受験への悪影響を心配しなくていいと言えます。一方、プレー時間が3時間以上の人たちは進学率の低下が顕著で、長時間のゲームが悪影響を及ぼすことも確認されました。

ゲームで学力は低下する? 大規模調査で「1日1時間以内ならむしろ好成績」

なぜこのような結果が出たのでしょうか。

有力な仮説は、「もっとゲームをしたい」という誘惑を断ち切り、プレー時間を1時間以内に抑えられる子は自らを管理する力が備わっているので、受験の合格という目的に向かっても自己管理ができるから、というものです。ゲームについて「自分で決めたルールがあった」と答えた人の進学実績が良かったことが、この仮説を裏づけています。「家族と決めたルールがあった」と答えた人の進学実績は上がっていないので、ルールは本人が自律的に決めることが大事です。

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