一色清の「このニュースって何?」
民間企業が宇宙旅行に成功 → 観光以外の狙い「超高速飛行」も押さえよう
2021.07.16

日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真は、民間宇宙船「スペースシップ2」の船内=ヴァージン・ギャラクティックの動画から)
「搭乗券」は1席2700万円
アメリカのヴァージン・ギャラクティック社が7月11日、宇宙旅行に成功しました。飛行機型の宇宙船「スペースシップ2」に創業者のイギリス人実業家リチャード・ブランソン氏らが乗り、上空86kmの「宇宙空間」に到達しました。その後、ふつうの飛行機と同じようにアメリカにある宇宙港(宇宙船の離発着のための施設)の滑走路に着陸しました。
宇宙旅行はヴァージン社だけでなく、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルーオリジンや、電気自動車メーカーのテスラを経営するイーロン・マスク氏のスペースXなども予定しています。宇宙に人を送ることは少し前まで国家にしかできない領域でしたが、今や大金持ちが資金を投じた会社が実現させる時代になりつつあります。わたしたちが宇宙に飛び出せる日は、民間企業の競争によって意外に早くやってきそうな情勢です。
今の宇宙開発を理解するために、まず、宇宙の定義を押さえておきましょう。地球は空気でおおわれています。空気でおおわれているところを大気圏といい、その外を大気圏外といいます。言葉の上では、この大気圏外が宇宙です。ただ、空気は徐々に薄くなるので境目ははっきりしません。国際航空連盟は高さ100kmから上を宇宙と定義しています。これが一般的な宇宙の定義ですが、アメリカ空軍は高さ80km以上を宇宙としています。今回、ヴァージン社の宇宙船が到達したのは86kmなので、国際航空連盟の定義では宇宙ではありませんが、アメリカ空軍の定義では宇宙になります。先んじられたライバルのベゾス氏は、ヴァージン社の宇宙旅行を100kmに到達していないので疑問だとしています。ちなみにジェット旅客機の飛行高度は10kmくらいです。
民間会社が人を乗せた宇宙船を飛ばす狙いは今のところふたつあります。ひとつは、「宇宙から地球を見たい」「無重力状態を体験したい」などの観光や体験を目的にした旅行用です。ヴァージン社はすでに1席25万ドル(約2700万円)で搭乗券を販売しています。60カ国以上の約600人が予約済みで、日本人も約20人いるそうです。短時間の宇宙体験なので、宇宙旅行にしては比較的安い値段で提供できるようです。スイスの金融大手は、宇宙旅行の市場規模が2030年までに年間30億ドル(約3300億円)に達すると予測しています。
ベゾス氏のブルーオリジンは7月20日にベゾス氏のほか3人の客を乗せて高度100kmの宇宙旅行をする予定です。そのうちの1席はオークションに出品され2800万ドル(約30億円)の値がつきました。マスク氏のスペースXは今秋以降、民間人4人を乗せて自動操縦で地球を周回する飛行を始めることにしています。また、日本人実業家の前沢友作氏らを乗せて月を回る旅行も2023年に計画しています。