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人間の能力向上を目指し、AI で感性を研究 筑波大学真栄城哲也研究室

2021.08.11

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濱田ももこ
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◇筑波大学情報学群 知識情報・図書館学類

漫才日本一を決める「M-1グランプリ」の順位をAI(人工知能)で予測し、見事に的中。研究題材はそんな、「興味があればなんでも」。学生の「やりたいこと」を重視する意図とは。(撮影/朝日新聞出版写真部・戸嶋日菜乃)

「人は何に面白さを感じるのか」というテーマに関心を持ち、漫才の面白さをAI(人工知能)で解明する研究を10年ほど前から行っている真栄城(まえしろ)哲也教授。

「M-1グランプリ」など1千以上の漫才の画像データと音声放送用の文字データをAIに学習させ、それらのデータに基づき、「話すスピード」「笑いが起きた間隔」「セリフの長さ」など6項目を点数化。そこから漫才を評価する数理モデルを作成した。6年前の「M-1グランプリ2015」では、予測対象に入っていなかった敗者復活組を除く上位3組の順位をAIで予測し、的中させた。

AIを活用した創作にも挑戦

漫才を評価するだけにとどまらず、現在はAIを活用した漫才台本の創作にも挑戦している。慢性疾患患者を対象に、その人の表情や体調などから、楽しい、悲しいなどの心理状態と、患者の笑いの好みなどを推測。漫才には、ストーリー性のあるもの、細かいエピソードを少しずつ変化させていくものなど、多様な形式があり、患者ごとの好みに合った漫才台本をAIが自動生成するという試みだ。その漫才をロボットが実演した場合に、患者の健康状態の向上につながるのかを研究している。

「一生付き合っていかなければいけない病気を抱えている患者さんは、精神的に負担もかかるでしょう。『自分好みの笑い』がサポートになればうれしいです」(真栄城教授)

さらにこの研究によって、「人の感性」の仕組みを解明したいと話す。

「子どもの教育でも探究学習や非認知能力といった、目に見えない力を大切にする教育が注目されています。どうすればより発想力や創造力を豊かにできるのか、具体的な方法がわかれば教育にも生かせるはずです」

真栄城哲也教授。学生のときは情報科学を専攻し、生物の遺伝子について研究していた
真栄城哲也教授。学生のときは情報科学を専攻し、生物の遺伝子について研究していた

研究課題は学生の興味を大切に

真栄城研究室のキーワードは知能、知識、学習、知識の構造、ネットワーク、関係性、生命科学と幅広い。学生たちは、おのおの好きな題材に取り組んでいる。より人を感動させるプレゼンテーションの練習システムの制作、スポーツや救命救急など、とっさの判断が問われる場面での意思決定能力の向上、アニメや映画の吹き替えでいかにキャラにあった声を生成できるのかなど、研究ジャンルも多岐にわたる。

博士後期課程1年の前野翔平さんが真栄城研究室に入ったのは学部4年のとき。もともと明確にやりたいことがあったわけではなく、研究をしたいという気持ちもなかった。とりあえず「なんでもできそうだな」というのが真栄城研究室に入った理由だ。

学部生時代の卒業研究では、あらゆる分野のエキスパートがプレゼンテーションをする「TED Talks」を題材に、スタンディングオベーションが起きるプレゼンテーションをAIで予測する研究をした。

「もともと、自分自身がプレゼンテーションに苦手意識がありました。それを克服したいな、と思ったのが研究のきっかけです。実際に研究してみると、研究自体が面白く、大学院に進もうと考えました」(前野さん)

「こんなに、みんなが異なるテーマに取り組んでいる研究室はないと思います。広告、スポーツ、印象……いろんな題材の研究に対する考え方を知ることができて、視野が広がります」(前野さん)
「こんなに、みんなが異なるテーマに取り組んでいる研究室はないと思います。広告、スポーツ、印象……いろんな題材の研究に対する考え方を知ることができて、視野が広がります」(前野さん)

博士後期課程に進学した現在は、解析をメインで行っていた研究から発展させ、「プレゼンテーションの練習システム」を作っていきたいと話す。現在は、これからどうシステムを作っていくのか真栄城教授と話し合っている段階だというが、その先には大きな夢がある。

「内容の作成はもちろん、発表するときの緊張感も含めて、人をひきつけるプレゼンテーションは難しいですよね。この練習システムでは、用意した原稿をよりいい形に修正したり、VR(仮想現実)を使用して仮想の聴衆の前での話し方や身ぶり手ぶりを総合的に分析したりできるようにしたい。原稿を作る能力も発表する能力も向上して、世の中に面白いプレゼンテーションが増えればいいな、と思います」(前野さん)

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