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日本人の7割が睡眠不足? 親子で知りたい、睡眠のリズムを整えるコツ

2021.09.01

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夏野 かおる
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フィリップスが世界13カ国、1万3000人の成人を対象に行った「世界睡眠調査」では、日本人のうち、わずか3割しか睡眠に満足していないことが明らかになりました。また、内閣府の調査でも、小学生でも慢性的に睡眠不足になっていることが明らかに。大人も子どもも陥りがちな睡眠不足のリスクと睡眠のリズムを整えるコツについて、広島大学教授の林光緒さんに聞きました。

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話を聞いた人

林 光緖さん

広島大学大学院 人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 教授

(はやし・みつお) 広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期修了。学術博士。広島大学総合科学部助手、講師、助教授、准教授を経て、2008年から現職。専門は睡眠学、精神生理学。日本睡眠学会(幹事・評議員)、日本生理心理学会(評議員)、日本社会精神医学会(評議員)、日本睡眠改善協議会(学術系評議員)ほか所属学会多数。著書に『睡眠学(第2 版)』(朝倉書店)、『快適な眠りのための睡眠習慣セルフチェックノート』(全日本病院出版会)、『眠気の科学』(朝倉書店)など。

ネットの普及と社会の価値観が日本人の睡眠を削る

——フィリップスの「世界睡眠調査」によると、日本人のうちわずか3割しか睡眠に満足していませんでした。なぜ、これほど満足度が低いのでしょうか。

結論から話しますと、日本人は世界一睡眠時間が短く、睡眠不足の傾向があるためだと考えられます。2つのデータを見ながらご説明しましょう。

まずご覧いただきたいのが、NHKが実施している「国民生活時間調査」の結果です。この調査は、人びとの生活実態を捉えるために、睡眠や仕事、テレビ視聴などにかける時間を5年ごとに調べています。グラフを見てみると、日本人の平日の睡眠時間は1970年から2010年まで減少傾向にあるのが分かります。

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NHK「国民生活調査2020」(https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/)内の睡眠時間に関するデータ

次に、経済協力開発機構(OECD)の調査による各国の平均睡眠時間です。これを見ると、日本人の睡眠時間(7時間22分)は33カ国の中でも最低で、全体平均(8時間27分)を1時間以上も下回ることがわかります。

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OECDの2018年調査結果より林先生が作成したグラフ。日本の睡眠時間は加盟国中で最下位となっている

このような傾向があるのは、やはり、娯楽の種類が増えたことが大きいと思います。50年前の暮らしを思い返してみると、夜中まで起きていてもすることは特にありませんでした。それが今では、コンビニもあれば、インターネットもある。便利な反面、夜更かし気味になる環境が整ってしまったのでしょう。睡眠不足が続けば、おのずと睡眠への満足度も下がる。その結果が、フィリップス社の調査結果に表れたものと考えられるのではないでしょうか。

——2つの調査には納得感がある一方で、インターネットの普及は全世界的な出来事なため、「なぜ日本だけが?」という疑問が残ります。

考えられる理由は2つです。1つは、社会の倫理観の問題。どうにも日本には、睡眠時間を削って働いたり、勉強したりするのが美徳、というような価値観が蔓延しているように思います。ことわざや慣用句を見てみても、「早起きは三文の徳」や「食べてすぐに寝ると牛になる」のように、睡眠をネガティブに扱ったものが多い。貝原益軒(かいばらえきけん・江戸時代の儒学者)が著した『養生訓』にも、“あまり寝すぎると健康に良くない”といった趣旨のことが書かれています。

受験関連の言葉でも、昔は「四当五落」(しとうごらく)などと言われたものです。つまり、睡眠時間を4時間程度に削った者は合格でき、5時間以上寝ているような者は不合格になる、という意味です。さすがに今ではあまり聞かれなくなりましたが、うっすらと「そのくらい一心不乱にやるのがかっこいい」と考えている人はまだいるはず。こうした社会の風潮が、睡眠不足に拍車をかけている可能性があります。

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仮説ベースではありますが、もう1つは近視の影響が考えられます。先ほどのOECDの調査に話を戻すと、実は前回の最下位は韓国だったのです。また、グラフにはないものの、台湾も睡眠時間が短い。なぜそのような傾向があるのか、確かなデータはありません。ただ私は、アジア人に近視が多いことが関係しているのではないかと考えています。

私たち日本人は、「暗いところで作業をすると目が悪くなる」と言われ、部屋を明るくするよう努めてきました。その結果、必要以上に部屋の中が明るくなった。海外旅行をされた経験のある方なら、建物内の明るさの違いに驚いたことがあるかもしれませんね。海外のホテルは白熱灯色の照明を使っていることが多く、日本の生活に慣れていると、薄暗く感じてしまうかもしれません。

人間は、夜に200ルクス(明るさの単位)程度の光を浴びるだけでも睡眠に影響があると言われます。ところが、現代の日本の室内は、夜でも400〜500ルクスあることも。しかも、昼光色や白熱灯色でなく、蛍光灯色(ブルーライトを多く含む、青白い光)を選んでいるケースが珍しくありません。

このような生活になった結果、眼精疲労は予防できたかもしれないものの、体の自然なリズムを崩すことにつながってしまったのではないか。それが、現在の私の仮説です。

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