鉄ちゃんの育て方

時刻表「妄想旅」もおすすめ! 「電車が好きな子はかしこくなる」著者に聞く鉄ちゃんの伸ばし方

2021.08.18

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葉山 梢
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鉄道好きの子どもを育てていると「学びに役立っている」と実感する場面は多々ありますが、どのような力が育っているのでしょうか。教育学や心理学の視点からみた鉄道のポテンシャルについて、「電車が好きな子はかしこくなる」の著者、弘田陽介・福山市立大学教授に聞きました。(写真は、鉄道模型を見る子ども=2021年5月15日、静岡市駿河区、山崎琢也撮影)

弘田陽介

話を聞いた人

弘田陽介さん

福山市立大学教授

ひろた・ようすけ/1974年生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。専門はドイツ教育思想、実践的身体教育論、子どもと教育のメディア論。著書に「電車が好きな子はかしこくなる」(交通新聞社)、「いま、子育てどうする?」(共著、彩流社)など。3人の男の子の父親。

分けることがわかること

――我が家の息子も鉄ちゃんです。文字も数字も鉄道を通して覚えたので、ありがたいと思う一方で、車両や駅名のマニアックな知識よりは、もっと人生に役立つことを覚えてほしいという気持ちになります。

鉄道の知識そのものがその後の人生で役立つ保証はありませんが、車両の形や色、路線名、駅名といった様々な情報があふれる鉄道は、「認知能力」を育てる格好の素材といえます。認知能力とは、記憶力や理解力、それらをもとに考え、未知のことを予測する能力を指します。学力やIQに代表されるような、数字に表すことが可能な能力です。

日本の鉄道の環境は、海外に比べて豊富でかつ、日本人らしい高度な几帳面(きちょうめん)さがあります。例えばニューヨークの地下鉄網は発達していますが、きちんと路線ごとに決まった車両が走っているとは限りません。一方、日本の鉄道は路線によって運行する車両の種類に秩序がある。例えば、JR山手線はE231系とE235系のウグイス色のカラーリングの車両が走っています。E231系は中央・総武緩行線でも同じ形が走っていますが、カラーリングはカナリアイエロー。つまり車種は同じだけど色は違うというように、「似ているけど違う」ものを区別しながら認識するようになってきます。

この区別の認識を、心理学では「カテゴリー分類」と呼びます。鉄道でいえば、鉄道と自動車の区別が基礎的なレベルでのカテゴリーで、鉄道の中では新幹線と在来線の区別が上位レベル、さらに細分化して新幹線の中での区別やJR、私鉄各社の車両の区別があります。つまり「分けることがわかること」なのです。いわば頭の中に整理棚を作っていくような作業です。このような整理棚が鉄道の世界を通して一度作られたら、その後に別の物に関心を持ったときもその世界の理解に役立ちます。学校での学習にも大きな力になるでしょう。

日本の鉄道のようにJRや地下鉄、私鉄のかなり複雑な路線が併存する複層的なシステムはなかなかありません。知れば知るほど面白く、子ども、特に幼児の好奇心を刺激します。面白いとさらに自分で調べる。「好きこそものの上手なれ」のサイクルが子どもの知識吸収・整理能力をどんどん伸ばしてくれます。

――最近は「非認知能力」も話題ですが、鉄道で非認知能力も伸ばせますか?

非認知能力は、認知能力以外の、数値化することが難しい力のことをいいます。忍耐力、社交性、自尊心などと細分化しすぎて、何を指すのか明確ではないのですが、「社会性」がその一つであることは間違いないでしょう。小さな子どもは、最初は保護者、そこから徐々に社会の人々と関わっていき、社会的マナーや道徳性を身につけていきます。

大人にとって今の仮面ライダーの話は分からないけど、鉄道なら誰でも既に知っているので、子どもとの会話の素材になりますよね。親子で同じものに関心を寄せることは、発達心理学では「共視」とか「並ぶ関係」といい、親子の愛着関係を育むものと考えられます。子どもが1~2歳なら抱っこや手をつないだ形で、遠くからやってくる電車を見つめる。2~3歳になれば親子で電車のおもちゃ遊びができます。

一緒に絵本を読むのもいいですね。鉄道には、絵本や写真集、図鑑など、現実社会とつながるメディアがたくさんあります。特に鉄道が出てくる絵本は数が多く、保護者にとって懐かしく感じるものもあるのではないでしょうか。「きかんしゃやえもん」などが有名ですが、機関車を主人公にすることで、物語が子どもでも読み取れ、社会性を育むのにとてもいい素材です。僕は子どものころ「トマトせんせいのじどうしゃ きょうだいきかんしゃたろうとじろう」という絵本をよく読んでもらっていました。自分が子どもに読む立場になり、世代の架け橋になってくれる絵本の素晴らしさを実感しましたね。

また「乗り鉄」なら、実際に電車に乗ることで、社会との関わりやマナーを学ぶこともできます。おでかけはいつも車となると、自宅のリビングの延長で、子どもが学ぶことは少ないでしょう。家とは違う世界があることを知り、人を意識した振る舞いをするのは大事な経験です。

今、認知心理学でもてはやされている概念に「実行機能」があります。目的を達成するために段取りをつけてこなしていくことで、脳の前頭前野と深く関わっています。子どもと一緒に旅行したり、旅行の計画を子どもに立てさせたりすることは、実行機能の芽生えを助けてくれます。

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