海外大進学という選択
日本初! 公立小中高一貫校の小学校長に聞く「12年間を通じて目指すもの」
2021.08.23

2022年春、東京都立立川国際中等教育学校(立川市)に開校する附属小学校。公立では初めての小中高一貫校になります。「国際」の名前がついているように、教育理念に基づいて外国語教育に力を入れるとともに、他の人と意見を伝え合って学んでいく「探究的な学び」を特色に掲げます。「高い言語能力をいかして、様々な分野で活躍する人を育てたい。高校卒業時に海外大に進むことも当然、視野に入れています」と市村裕子校長。12年間を見通して、どんな力を子どもたちにつけてもらいたいのか、話を聞きました。(写真は、2022年夏に完成予定の校舎イメージ=都立立川国際中等教育学校附属小学校提供)
(いちむら・ゆうこ)1968年生まれ。91年に都立高校の英語教員となり、都立四谷商業高校(当時)に赴任。2013年4月~17年3月、都立国際高校副校長をつとめ、国際バカロレアコース開設に携わる。17年4月~18年3月、都立深川高校長。20年4月から附属小学校開設準備室長、21年4月から現職。
小1から英語に第二外国語
――日本で初めての公立小中高一貫校。狙いはどこにありますか?
いま、社会は急速に変化しています。学校も新しい教育システムを構築していかなければなりません。「正解」のない課題に対し、多様な人と協働して「最適解」や「納得解」を得ていくことが求められます。そうした社会で国際的に活躍し、貢献できる人の育成を教育理念としており、そのために、①言語と内容を統合させて取り組む英語教育、②考える方法を知り、根拠に基づいて思考する力を向上させる探究的な学び、③学びを実践する場としての学校行事――を教育内容の特色として位置づけ、12年を見通して力をつけていく狙いです。その先の進路として、国内だけでなく、海外大学にも挑戦するといった、より広い視野で進路を選択することができるようにしたいと考えています。
卒業後の生徒像から逆向き設計で教育内容を考えると、おのずと中学校、小学校で取り組むべき内容、取り組んだ方がいい内容が見えてきます。例えば英語教育について言うと、低学年の児童はダンゴムシ(roly-poly)や毛虫(caterpillar)などに興味を持つ傾向があると思います。そうした言葉は英語でどのように言うのかな、英語でも言ってみたいね、言えたね、通じたね!――。そんなふうに、その発達段階だからこそよく見えている世界を大事にしながら英語に出合い、語彙(ごい)を豊かにしていくことで12年後の姿につながるのではないかと考えます。児童が見えている世界に立脚しつつ、高校段階では英語でディベートや論文作成をするために、アカデミックな英語力へと発展させていく必要があります。そのために、中学校段階や小学校段階で求められる工夫は何かという考え方でカリキュラムを作っています。
――英語は1年生から教科として学び、第二外国語も設定していると聞きました。新しい小学校の語学教育について教えてください。
多様な人と協働する上で、最も汎用性が高い言語は英語です。1年生から6年生まで、週4コマ、教科として英語の時間を設けています。義務教育の9年間で、通常の学校より1000時間以上多く外国語を学習します。

そこで課題となるのが教科書で、都教育委員会で使用するテキストを作っています。テキストは、発達段階に応じて、児童が言いたいこと、書きたいことなど、内容を重視し、教科との関連も図って作成しています。例えば、1年生のunit4「えんぴつをかぞえよう(How many pencils?)」は算数と、 unit5「なつをむかえるよ(Do you like tomatoes?)」は生活科との関連を意識しています。
「聞くこと」からスタートして、真似をして口に出し、英語の音声に慣れ親しんでから、友達とやり取りをして、自分の考えを発表していくところまでもっていきます。それが、将来的にはディベートやプレゼンテーションにつながっていくと考えています。「書くこと」は1年生の夏休み前後からを予定しています。はじめは、アルファベットの形に親しむといったところから取り組みます。
英語を論理的に理解するために文法の学習は重要です。第一言語と同じように自然と習得していくという環境ではありませんので、論理的に物事を思考する力が伸びてくる5年生くらいから、文法が学べる仕掛けを学習に組み込みたいと考えています。文法の学習で大切なことは、実際の活用をとおして学ぶことです。文法を文法として学ぶのではなく、英語を実際に活用しながら、帰納的、演繹(えんえき)的に学べるようにしていきたいです。
英語以外の外国語にもふれる機会として「マルチリンガルスタディ」というプログラムを計画しています。小学校段階では、様々な言語に「出合う」をテーマに、1年生から学びます。英語のように授業としてではなく、主に特別活動の時間を使って月1、2度、英語以外の言語に出合います。近隣の大学と連携し、予定では、どの学年も1学期に韓国語と中国語、2学期にドイツ語、スペイン語、フランス語、3学期にアラビア語に触れ、1月か8月には、その他の言語にもふれる機会を設定する予定です。基幹となるこの6言語は、汎用性と地域バランスを考えて選びました。中等教育学校では、この6言語から1言語を選択し、週2コマの第二外国語を、今度は授業として学びます。小学校の時に自分とは異なる言葉、異なる暮らし、異なる文化があることに気づき、「もっと知りたい」という主体的な気持ちを持って、中学校段階で言語選択ができるようにしたいと考えています。
