海外大進学という選択

「近隣語」を高校から 生徒の1割強が海外大へ 関東国際高校

2021.08.24

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山下 知子
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中国語、ロシア語、韓国語、タイ語、インドネシア語、ベトナム語。東京・新宿にある関東国際高校は、日本に近い国々の言葉「近隣語」を学ぶことができ、毎年1割強の生徒が海外の大学に進学します。高校で英語以外の言葉を学ぶ意義とは? また、どんな環境を用意しているのでしょうか。日本の高校での第二外国語教育の現状を含め、黒澤眞爾・副校長に話を聞きました。(写真は、関東国際高校のパンフレット)

黒澤眞爾

話を聞いた人

黒澤眞爾さん

関東国際高校副校長

(くろさわ・しんじ)東京都出身。1989年、韓国・嶺南大学大学院修士課程修了。専門は東アジア文化交流史。外国語(韓国語)教諭。アジア学生文化協会、自由の森学園中学高校(埼玉県)勤務を経て、2000年に関東国際高校へ。2013年から現職。

外国語教育で成績中間層の生徒を伸ばす

――6言語からなる「近隣語」を学ぶコースが特長の一つです。狙いはどこにあるのでしょうか?

中国や韓国を中心に、地政学的に日本と近い国々とはひざ詰めでつきあっていかないといけません。言葉や文化をよく知る人が必要です。私たちは、そこで活躍できる人を育てたいと思っています。誰もがグローバルリーダーになれませんし、なる必要もありません。私たちは、グローバルに生きていける人間を育てたいと思っています。それは、多様な人と協調して生きていける人のこと。相手を立て、一緒に何かをし、コツコツとやり続ける人です。

偏差値でいうと、本校は決して高い学校ではありません。でも、考えてみてください。圧倒的多数は成績中間層。この層の生徒の力を伸ばしていくことをもっと真剣に考えるべきです。本校はそれを外国語教育でやろうとしています。「グローバル」というと、成績上位層の生徒向けの施策になりがちですが、ボリュームゾーンの生徒一人ひとりの力を花開かせる取り組みも同じぐらい大事なはず。また、諸言語に関心を持つ若者たちをしっかり育成する政策を国には求めたいですね。

韓国の大学に進学した卒業生で東南アジアの言語を学んだ学生は、卒業を前に各国の大使館や領事館の争奪戦だったと聞きます。霞が関の官僚として活躍している卒業生もいます。中学では2人とも目立った成績ではありませんでしたが、それでも、そこまで伸びていけるんです。

生徒は偏差値で選んでくるのではなく、やりたいことを決めている生徒が多い印象です。ですから、大学も偏差値で決めるなんてことはないですし、学校としてそれを求めていません。

ここ数年は、1学年全400人で、50~60人が海外の大学へ進学します。1割強の生徒が海外大へ行くということは、2~3割の希望者がいるということ。以前は海外進学クラスを設けていましたが、希望者が多くなったので専門クラスは廃止し、各コースにいる希望者を全体で指導しています。

関東国際高校=2021年6月、東京都渋谷区
関東国際高校=2021年6月、東京都渋谷区

――どのような指導をしているのですか?

授業は入門レベルから始まります。英語を学びつつ、1年生で週5コマ、2年生で6コマ、3年生で6~8コマの授業があります。ネイティブの先生もおり、充実した学習環境があると自負しています。韓国語コースで言うと、2000年のコース開設時から慶熙大学校のサポートを受けています。韓国語ネイティブ教員の確保、高校生用教材の開発、シラバスの作成、短期留学プログラムなど、教育の核になる部分を作り上げることができました。

2年の最後には、3週間、現地で研修します。提携高校があるので同年代とも交流します。今年の3年生は、コロナ禍で研修には行けませんでした。例年の生徒と比べてどうなるかと思いましたが、遜色なく力をつけています。「この言葉を学びたい」という自発性には、すごいものがありますね。

大学と一緒に、「高大連携ブリッジ授業」も定期的に開いています。大学の先生に来てもらう形と、生徒が大学に出向いて講義を受ける形の二つの形式があります。2019年度は、3年生が法政大国際文化学部や津田塾大総合政策学部の授業に参加しました。また、2年生は神田外国語大の「異文化コミュニケーション論」や順天堂大の「グローバルヘルスの視点からの感染症」といった授業を受けました。

近隣語各コースKANTOプレゼンテーションコンテスト。ロシア語を学ぶ3年生は、ロシアとネコの深い関わりについて発表した=2021年7月
近隣語各コースKANTOプレゼンテーションコンテスト。ロシア語を学ぶ3年生は、ロシアとネコの深い関わりについて発表した=2021年7月

3年生全員は課題研究を行います。学習の中で得た関心事を3千字程度のリポートにまとめ、7月にプレゼンテーションを行います。今年は14人が参加し、世界一と言われる韓国の出前産業や、ベトナムのワーク・ライフ・バランスに関する発表がありました。

2018年度の卒業生の到達度をCEFR A2以上でみると、中国語69%、ロシア語58%、韓国語71%、タイ語・インドネシア語・ベトナム語56%という結果でした。

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