大学中退を防ぐために

職業直結の「実学系」学部・学科でも多い大学中退 ミスマッチ防ぐには?

2021.08.26

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豊 吹雪
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工学部や薬学部、看護や介護を学ぶ学科など、卒業後に就く職業がある程度イメージできる実学系の学部・学科でも、中退者が多いケースが珍しくありません。学力的についていけない場合もありますが、意外にも卒業後のイメージを持たないまま入学し、「その職業に興味がない」「向いていない」などとやめていく学生も少なくないようです。そんな課題に取り組んできた湘南工科大学副学長の木枝暢夫さんと、全国に専門学校を展開する滋慶学園グループで常務理事を務めた平田豪成さんに話を聞きました。(写真は、湘南工科大の全学科1、2年生必修の授業「共通基盤ワークショップ」=2021年6月、同大提供)

グループワーク必修化で「社会人力」鍛える

木枝暢夫

話を聞いた人

木枝暢夫さん

湘南工科大学副学長、人間環境学科教授、工学博士

(きえだ・のぶお)東京工業大学大学院修了後、同大学助手を経て、1993年に湘南工科大学へ移る。2013年から工学部長として教育改革を推進し、中退率を半減させた。専門・研究分野は無機材料工学、機器分析学。研究テーマは「環境にやさしい技術に用いられる新素材の合成と応用」。

「そもそも大学へ行く目的は?」「4年後のイメージをどう描いていますか?」

2人に1人以上の高校生が大学に進学するいま、こんな質問に明確に答えられる高校生はどのくらいいるでしょうか。湘南工科大学で教育改革を推し進めてきた木枝暢夫副学長は、大学で学ぶ専門分野と自身のキャリアを具体的に考えずに進学する学生が増え、大学の役割や意味づけが非常に難しい時代、と感じています。そのなかで同大は、授業に協働学修を積極的に取り入れ、専門知識・技術の定着に加えて、実際に社会で役立てるための基礎力を育むことを目指しています。

開学から58年の歴史を持つ同大は、「社会に貢献する技術者の育成」を目的に、工学部の中に、機械工学科、電気電子工学科、情報工学科、コンピュータ応用学科、総合デザイン学科、人間環境学科の6学科を抱える単科大学です。機械工学科や電気電子工学科なら製造業、情報工学科ならIT業界というように、卒業後の職業イメージもわりと持ちやすい学問領域です。しかし、大学進学率が上昇し、社会も変化していくなか、多くの他大学と同様に同大でも、学ぶ専門性と職業イメージを必ずしも結びつけられないまま入学する学生が一定数存在するようになってきました。2010年度には中退率は全体で約8%、入学年度ごとに見たときの卒業率も入学者の70%を切り、10%は1年次で退学する事態となりました。同大ではこのことを重く受け止め、13年度の学長交代を機に教育改革をスタート。工学部長として様々な施策を打ってきた木枝副学長は、「中退率削減」を改革の進展度を測る一つの目安に据えました。

主に取り組んだことは、①早期発見・早期対応の仕組み構築(出席管理の厳格化、保護者に情報発信し一緒に学生を見守る、など)、②つながりを実感できる居場所作り、③授業の魅力向上・アクティブラーニング化、などです。
特に、入学したばかりの学生が大学になじんで、学ぶ意欲をかき立てられるような「仕掛け」を次々と打ち出しています。

なかでも、2017年度から始めた「共通基盤ワークショップ」は全学科の1、2年次必修で、グループワーク形式の授業が学生の成長につながっているといいます。

高校時代の登校習慣が残っている1年次は月曜の1、2限に設定されており、エネルギーやサイエンス、ロボット、国際、スポーツなどの16分野から、グループで取り組むテーマを決め、情報収集をして課題を発見、解決方法を議論し、結果をクラスで互いに発表して共有します。入試方法や入学モチベーションが異なる新入生にとっては、このグループワーク形式の授業を重ねることで学内での人間関係を築くこともでき、専門的な知識の獲得や応用力だけでなく、社会人として必要な計画立案能力や推進力、考えを伝える力や集団の中で役割を果たす力などの訓練にもなっている、といいます。

こうした教育改革は出席率の向上をもたらし、各学期の平均取得単位数の上昇、中退率の減少、につながりました。そのうえで木枝副学長は「入学時のミスマッチをできる限りなくすことが学生本人にとって一番大切だ」と考えています。なぜなら、「大学は何か一つだけをできるようにする、何点取れるようになればいい、という場ではなく、その人全体のレベルを上げるための場、時間のはず」だからです。

そのため、ここ数年は特に、オープンキャンパスをはじめ高校の教職員への説明会などで、いい点も悪い点も含め同大の特性をしっかり説明することを意識しているそうです。受験生には、大学へ通う目的や意味、4年間の過ごし方をしっかりイメージし、自分が成長できる環境が整っている大学を選べることが何より大切だと伝えています。

「うちの大学は社会人として通用する人材を育成することを目標としており、受け身ではなく自ら積極的に関わることを求められる授業が多い。いい面も悪い面もしっかり見極めて、受験を決めてほしい」と木枝副学長は話します。

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