読書と作文が好きになる学び

風越学園の「読書家の時間」「作家の時間」 都内進学校から転身した教師の挑戦

2021.08.24

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石臥 薫子
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アカデミックな授業から「個別」にシフト

2019年4月、風越学園の設立準備から携わっている澤田先生ですが、それまでは東京の進学校、筑波大学附属駒場中・高の教壇に立ち、10年ほど前から「作家の時間」「読書家の時間」の実践を重ねてきました。しかし、以前は「学問の面白さを伝えるのが筑駒の教員の仕事だ」と考え、大学の教養講座のような授業に力を入れていたそうです。

「若い頃は文芸作品を文学理論を使って読むとか、評論を読みながら現代思想を学ぶといったアカデミック志向の授業をしていて、そういう内容が響く子たちも多くいました。僕自身、いい授業をしている気になっていたときもあったのですが、ある時、発言している生徒を自分で数えてみたらクラスの半分しかいなかった。全員が発言しているぐらいのつもりだったので、ショックでした。テストについても、授業の内容を覚えているかどうかの『暗記テスト』になっているのではないかと疑問を抱くようになり、もっと生徒一人ひとりに目を向けた『学びの個別化』をしたいと思うようになりました」

ちょうどその頃、先生はある本に出会い衝撃を受けます。教育界のノーベル賞と呼ばれる「グローバル・ティーチャー賞」の初代受賞者、ナンシー・アトウェルによる『In the Middle 第2版』です。アトウェルは「読書家の時間」「作家の時間」のベースとなった「リーディング・ワークショップ(RW)」「ライティング・ワークショップ(WW)」の第一人者で、著書には自らの試行錯誤を丹念に綴っていました。

アトウェルは本の中でこんな指摘もしていました。教師が教材を選びその解釈を一斉講義で教える授業スタイルが、結果的に「読むことは難しい」「教師の解釈が唯一の『正解』だ」「生徒は自分で読むべき本を決められるほどには賢くない」といった印象を子どもたちに植え付けている――。澤田先生は読みながら苦笑し、冷や汗をかいたといいます。そこから日本ではほとんどなじみのない読書と作文のワークショップ形式の授業に挑戦し始めました。

「年間の授業の3分の1は教科書を使い、3分の1はRW、3分の1はWWに充てました。教科書も、心情の読み取りなどをするよりも、『生徒が自分の作品を書くための技を学ぶ教材』と位置づけました。たとえば『走れメロス』なら、なぜ読者はメロスが早く走っているよう感じられるのかを考え、そこで発見した技を使って『走れ○○』を書く。そんなふうに、読むことと書くことを結びつけるように意識していました」

さらにアトウェルにならい、澤田先生自身も生徒と一緒に書くようになります。「作家の時間」では教師は添削をする存在だけではなく、生徒と同じ「書き手」。書いた作品を人に見せる不安やうまく書けない悩みを共有し、生徒のヒントになるように、自分の失敗や試行錯誤の軌跡も伝えます。

筑駒での実践を通して澤田先生は、生徒たちが読書や書くことを好きになり、お互いの読書体験や作品を共有しながら学び合っていく姿に手応えを感じるようになったといいます。教え子には、「読書家の時間」をテクノロジーを使って再現するサービスを開発し、起業した現役東大生もいます(記事はこちら)。

澤田英輔先生は、筑駒で「読書家の時間」「作家の時間」を始め、その魅力にとりつかれた=石臥薫子撮影
澤田英輔先生は、筑駒で「読書家の時間」「作家の時間」を始め、その魅力にとりつかれた=石臥薫子撮影

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