読書と作文が好きになる学び

「教科書通り」からの脱却 風越学園が「読書家の時間」「作家の時間」を実践する理由

2021.08.25

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石臥 薫子
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浅間山を望む扇形の校舎の真ん中に、どーんと広がる巨大なライブラリー。学校に図書室が付属しているのではなく、ライブラリーが学校を包み込んでいる――。それが、2020年4月に開校した長野県の軽井沢風越学園を訪れた第一印象でした。この環境を最大限に生かし、風越学園では「読書家の時間」と「作家の時間」を中心とした国語の授業を展開しています。プロジェクト学習を担当する甲斐崎博史先生に聞きました。(写真は、風越学園のライブラリー。吹き抜けの校舎で1階と2階を結ぶスロープの脇にも本棚が並ぶ=石臥薫子撮影)

甲斐崎博史

話を聞いた人

甲斐崎博史さん

軽井沢風越学園副校長

(かいさき・ひろし)1964年生まれ。東京学芸大卒。東京都の公立小学校に27年間勤務し、体験学習法を核に子どもたち自身が学び進めていくワークショップや探究学習、協同学習を実践。2018年から軽井沢風越学園設立準備財団に参画。20年の開校後はおもに1、2年生を担当し「読書家の時間」「作家の時間」やさまざまなプロジェクト学習を担当。著書に『クラス全員がひとつになる 学級ゲーム&アクティビティ100』など。

読書家の技を教えるミニレッスン

――まず、風越学園について簡単に教えてください。

幼稚園と義務教育学校からなる12年間の幼小中混在校です。異年齢で混ざり合って学び遊ぶことを基本としていて、カリキュラム上は幼稚園年少から小学2年生までを「前期」、小学3年生から中学3年生までを「後期」としています。「前期」は自分をつくる時期、「後期」は自分でつくる時期という位置づけです。

国語・算数・理科・社会のような教科別の授業だけで構成するのではなく、国語、算数・数学の要素を学ぶ「土台の学び」と、科目横断のプロジェクトで学ぶ「探究の学び」を軸としています。「土台の学び」では、「探究の学び」で子ども自身が問いを立て調べたり考えたり誰かに伝えたりするベースとなる知識やスキルを学びます。

――土台の学びの中に「読書家の時間」「作家の時間」があるのですね。

そうです。あの巨大なライブラリーを見てもらえばわかるように、風越では本をたくさん読んで、そこから刺激を受けながらたくさん書くことを、国語教育の核としています。ただ特段、時間数が多いわけではありません。1、2年生で週4コマ、3、4年生、5、6年生だと5コマ、7、8年生で5コマ。低学年は公立小学校に比べるとやや少なめで、高学年になると公立と同じか少し多いくらい。「読書家の時間」と「作家の時間」はだいたい半々です。

カッチリと構成された授業という意味では、いま言ったような時間ですが、それ以外の日々の暮らしや遊びの中で、本に触れたり文章を書いたりする機会はたくさんあります。外で遊んでいて見つけた虫や花を調べるのもそうですし、誰かにお礼状を書くことや、ごっこ遊びをしながらそれを物語にするなど、生活の中から学びにつなげていくことを心がけています。

――教科書は使わないのでしょうか。

「読書家の時間」「作家の時間」には、読書家の技や作家の技を学ぶ10分程度の「ミニレッスン」という時間があるのですが、その中で素材として使う程度です。教科書を学ぶのではなく、教科書で学ぶのです。だって世の中にはホンモノのテキストが何万冊もあるのに、それを使わずに、たった100ページちょっとの教科書だけでしか学ばないなんてもったいないでしょう。特に絵本は最高の教科書です。書き出しの工夫、描写の工夫……いくらでも学べます。

世の中では誤解されていますが、教科書で授業をしなきゃいけないなんて、実は学習指導要領のどこにも書いてないんです。教科書は、教科書会社が先生たちが教えやすいようにと親切に作ってくれているものであって、絶対に使わなきゃいけないものではない。指導要領に書かれていることは、ワークショップでも十分学べます。

――「読書家の時間」の基本的な流れを教えてください。

授業はミニレッスンで始まります。「読書家の時間」なら、最初は自分にぴったり合う本の見つけ方から教えます。合わない本は途中でやめてもいいし、複数の本を同時に読む読み方もあること、いろんなジャンルがあることや読書ノートのつけ方などを伝えます。

読書家の技も教えます。「自分の経験や身の回りのことにつなげて読む」「イメージを描きながら読む」「問いを持ちながら読む」「予想しながら読む」「大事なところを見つける」という五つが基本です。

ミニレッスンが終わったら、30分くらいはひたすら読む時間です。ライブラリーにはソファやリラックスできる空間がたくさんあって、どこでどんな格好をして読んでも構いません。教師は子どもたちの間を回ってカンファランス(個別相談)をします。「どんな本を読んでるの?」「主人公ってどんな人?」「自分と主人公と似てる?」「心に残ったことは?」などと簡単な質問をして、子どもたちの読みのレベルを把握し、次にチャレンジしていけそうな本を薦めます。

最後に5分から10分程度「共有の時間」があり、自分の読んでいる本や気に入った詩をみんなに紹介したり、読書ノートを見せあったりします。友だちと共有できると子どもたちはすごく喜びます。小さい子って頭をつき合わせて一冊の絵本を読むじゃないですか。あれはごく自然な姿で、読んだり書いたりする体験を共有したいというのは人間の根源的な欲求なのだと思います。風越学園ではグループで同じ本を読む「ブッククラブ」という活動も始めていますが、一緒に読むと、びっくりするくらいどんどん読めるようになります。ともに学びあえるコミュニティーがあることはすごく大事です。

子どもたちの生活空間のいたるところに本がある。現在蔵書は3万冊だが、収蔵容量としては閉架書庫を含め約6万冊ある=石臥薫子撮影
子どもたちの生活空間のいたるところに本がある。現在蔵書は3万冊だが、収蔵容量としては閉架書庫を含め約6万冊ある=石臥薫子撮影

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