学習と健康・成長
昆虫食に関心高まる 環境問題解決の糸口にも? 専門家「多様性、子どもに伝えて」
2021.09.09

栄養豊かで、環境にも優しいとされる昆虫食。近年では、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から関心が高まり、教育現場での体験・研究も進んでいます。将来を担う子どもたちにとって、昆虫食はどんな存在になるのでしょうか。昆虫料理研究家の内山昭一さんに、昆虫食の面白さについて聞きました。(※文中に昆虫食の写真があります)
(うちやま・しょういち)1950年長野県生まれ。NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長、NPO法人食用昆虫科学研究会理事。幼少から昆虫食に親しみ、1999年より本格的に研究活動に入る。主な著書に、「楽しい昆虫料理」(ビジネス社)、「昆虫食入門」(平凡社新書)など。
昆虫食が地球温暖化解決の糸口になる可能性
――昆虫食はいつから注目されるようになったのでしょうか。
きっかけは、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した論文です。この論文は昆虫食を科学的に分析したもので、昆虫食が地球温暖化などの環境問題を解決する糸口になるのではないかと、世界中で関心を高めました。
最近では、SDGs(持続可能な開発目標)でも関心が寄せられています。17ある目標のうち、貧困や気候変動などの観点から8つに関わるといわれています。
――何がそこまで注目されるのでしょう。
まずは食品として優れている点が挙げられます。昆虫はタンパク質が豊富。ほかにも、血中の中性脂肪やコレステロール値を調節する不飽和脂肪酸、ビタミンB群、地面に近いところで暮らしているから、銅や亜鉛、マグネシウムほか各種のミネラルを含んでいます。
殻も特徴的で、エビやカニと同じキチン質でできています。キチン質は人間が消化できる物質ではありませんが、食物繊維と同じ働きをしてくれます。このように、昆虫は体に良い成分を多く含む食材なのです。
次に、少ない餌でたくさんの肉が取れることが挙げられるでしょう。例えば、1キロの牛肉を得るためには約10キロの餌が必要ですが、コオロギなら約2キロの餌で同じ量の肉が取れると言われています。それに、牛の精肉部分は約4割。一方、コオロギは体の約8割が食べられますから、無駄が少ないんです。加工も、牛だと皮を剥いで、骨を取り、部位にわける必要がありますが、昆虫にはその手間がいりません。
狭い土地でも、立体的な飼育箱を作ればたくさん飼えて、水もそれほど必要ない。気温に多少変化を受けますが、成育も速く、蚕(かいこ)なら1カ月ほどで繭(まゆ)を作ります。
――飼育のコストがかからないし、生産効率がいいんですね。
そうです。ほかにも、地球温暖化の原因の一つといわれる温室効果ガスのメタンも、昆虫からはほとんど排出されません。メタンは、二酸化炭素の約25倍の温室効果があるといわれていて、牛などの反芻(はんすう)動物が餌を消化する際も放出されています。

最近では、災害時の非常食としても考えられています。食べ物の支給は炭水化物が速く届きますが、タンパク質はなかなか難しい。そこでタンパク質が多い昆虫を缶詰にして保存すれば、いち早く災害場所に届けることができます。
面白いところでは、宇宙食としても注目を集めているんです。家畜は重たくて宇宙に連れていくのは困難ですが、昆虫は卵を持っていけばいい。火星で暮らす場合に、ふ化させて飼育すれば、食べることができます。