学習と健康・成長
8割が「嫌い」、注射と上手につきあう 痛みを抑えるには? ワクチンの原理は?
2021.09.02

国内でのコロナワクチンの対象年齢は、現在満12歳以上となっており、子どものワクチン接種に対して保護者間でも関心が高まっています。ただ、「うちの子どうしても注射が苦手で」という方もいるのでは。「注射が苦手」は珍しいことでなく、アイシェアの調査によると、成人でも8割を超える人が「嫌い」と回答しているそう。インフルエンザなどの予防接種でも必要となる注射と上手に付き合う方法について専門家に聞きました。
(おいかわ・かおる)日本小児科学会、日本ワクチン学会、日本感染症学会、日本国際小児保健研究会所属。日本小児科医会業務執行理事公衆衛生委員会担当、出雲医師会学校医部会会長。京都府立医科大学卒。同小児科で研修後、医長として島根県立中央病院小児科に勤務。現在は島根県にて及川医院を開業し、日々診察にあたる。
ワクチン接種の痛みは打ち方・種類に左右される
——「針を刺されるのは痛いのでは」と、注射に対して苦手意識を持つ人は少なくありません。痛みは主観的なもののため、表現しにくいとは思いますが、どのくらい痛いものでしょうか。
そもそも、注射を怖く感じるのは、テレビなどの映像の影響もあるでしょうね。テレビでは、新型コロナウイルスやインフルエンザなどのワクチン接種のイメージとして、「長い針が一定時間刺されている」映像が繰り返し流れる傾向があります。その結果、注射が苦手な方がさらに恐怖心を募らせてしまうケースがよくあるのです。
ただ、実際の痛みの程度は、ワクチンの打ち方と種類に大きく左右されます。いま接種が進んでいるコロナワクチンの注射は、比較的痛みの少ない部類に含まれます。多少「チクッ」とする程度で、注射自体も数秒で終わるでしょう。映像のイメージで捉えている方は、少し拍子抜けしてしまうかもしれません。
——「痛みはワクチンの打ち方と種類に左右される」というのは、具体的にどういうことですか。
まず、ワクチンの打ち方には皮下注射と筋肉注射があります。皮下注射はその名の通り、皮下組織に打つ方法で、インフルエンザのワクチンなどがこれにあたります。
一方の筋肉注射は、皮下組織のさらに奥にある筋肉に打つ方法です。コロナワクチンの接種は、筋肉注射で行われます。
注射が苦手な方は、「深いところまで刺さる筋肉注射のほうが、痛みが強いのでは?」と不安に思うでしょう。しかし、一般には筋肉注射のほうが注射における痛みは少ないのです。そのため、コロナワクチンについても、比較的痛みが少ないと考えられています。
——ワクチンの種類については。
従来から使われているワクチンは、大きく「生ワクチン」「不活化ワクチン」に分けられます(コロナウイルスのワクチンについては例外なため後述)。
生ワクチンとは、毒性を弱くした弱毒菌・弱毒ウイルスを直接接種するものです。言い換えると、菌/ウイルスを生かしたまま接種する方法です。
不活化ワクチンは、病原菌や病原ウイルスの感染能力をなくしたり(不活化)、菌が出す毒を無毒化(トキソイド)したりして接種する方法。対象となる菌/ウイルスは死んでしまっています。
生ワクチンは接種すると、体内で菌/ウイルスがある程度増殖するため、免疫をつけやすいです。一方の不活化ワクチンでは、菌/ウイルスが死んでおり、毒性も弱くなっているため、そのままでは充分な免疫が得られない。そこで使うのが、免疫増強剤(アジュバント)です。
ところが、このアジュバントがくせもので、皮下に注射するとしこりを作ったり、痛みを生じたりすることがあるのです。最近では、アジュバント入りのワクチンは筋肉注射で打つよう推奨されていますが、皮下注射で行う病院もあり、「ワクチンは痛い」イメージにつながったのだと思います。

——コロナワクチンは生ワクチン/不活化ワクチンのいずれでもないそうですが、具体的にはどのようなワクチンなのでしょうか。
コロナワクチンのうち、日本で承認されているものは3種です。うち、ファイザー社と武田/モデルナ社のものはメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン、アストラゼネカ社のものはウイルスべクターワクチンという種類になっています。
これらのワクチンには、アジュバントは必要ありません。そのため、副反応による痛みや倦怠感は生じても、コロナワクチンを接種する“瞬間”の痛みは比較的強くないと考えられます。