「探究」で高大接続

「探究の学び」経験者たちの大学生活【後編】 公立高→京都大・東京外国語大

2021.09.14

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中村 正史
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日本の大学生の勉強時間が海外に比べて極めて少ないことはよく知られています。しかし、ベネッセ教育総合研究所の調査によれば、高校時代に自分の興味・関心事に主体的に取り組んだ生徒は大学での学習時間が長い傾向があります。主体的な学びという点で注目されているのが、2022年度からの高校の新学習指導要領でキーワードになっている「探究」です。高校時代に探究の学びを体験した人たちは大学でどのような生活を送っているのか、高校での学びが大学での学びにつながっているのかを追いました。(写真は、「探究基礎」で相談しながら作業する堀川高校の生徒=同校提供)

探究発表で京大教授に出会う 京都市立堀川→京都大

福王悠星

話を聞いた人

福王悠星さん

京都大学工学部電気電子工学科2年

(ふくおう・ゆうせい)探究学習にいち早く取り組んだ京都市立堀川高卒。19歳。

堀川高校の探究基礎では、1年後期から地学ゼミに所属しました。宇宙に興味があり、地学ゼミは宇宙や地球などを幅広く学べたからです。2年から個人研究に移る際、先生と相談して木星の衛星、エウロパのサンプルリターンを研究テーマにしました。エウロパは氷に包まれた衛星で、生命体がいる可能性があります。完成させた論文の題名は「エウロパの表面氷のサンプルリターン機構の開発」でした。

宇宙への興味は、最初は自分の名前から抱いたものでした。両親からは、ゆったりと心穏やかに、星のように優しく人を包み照らしてあげられる人になってほしいという願いを込めて付けたと聞いていますが、名前に「星」が付いていることや、小学生の頃に好きだった「ドラえもん」のアニメを見ていて宇宙が美しいと思ったことから関心を持ちました。

小3の時に、初代はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰った試料が京都大学の総合博物館に展示され、親に連れて行ってもらいました。中1の時には東京都府中市にあるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の航空宇宙センター、中3の時には茨城県つくば市の航空宇宙センターを見に行きました。堀川高校を志望した理由の一つは、海外研修の4コースの中に、アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターが入っていたからです。

探究基礎は高2の9月に中間発表として研究発表会があり、生徒や先生から質問や指摘を受けて、10月に論文を書き上げました。12月にタイで開かれたアジア環太平洋学生科学研究大会で研究内容を英語で発表し、エンジニアリング部門の金賞を受賞しました。翌年2月に京大宇宙総合学研究ユニットのシンポジウムでポスター発表し、3月には高校生の研究発表大会である京大サイエンスフェスティバルで発表しました。

京大宇宙総合学研究ユニットのシンポジウムで出会ったのが、宇宙飛行士の土井隆雄・大学院総合生存学館(思修館)特定教授です。私の発表は宇宙飛行士賞をもらい、土井先生から質問を受けたことが、京大を志望するきっかけになりました。

京大には特色入試で合格しました。宇宙とは一見、関係なさそうな工学部電気電子工学科にしたのは、宇宙総合学研究ユニットを通じて、宇宙の研究には様々な分野の研究者が関わっていることを知り、人工衛星を作るにしても、電気電子なら幅広く関われると思ったからです。特色入試で提出する「学びの設計書」「顕著な活動実績の概要」には、上記の活動と、大学で広く知識を学んで将来はプロジェクトをマネジメントしたいと書きました。

昨年はオンライン授業で教授と接する機会もありませんでしたが、対面授業になった今年4月に土井先生に会い、3年前のシンポジウムで宇宙飛行士賞をもらったことを伝えました。土井先生は私の研究テーマを覚えてくれていて、「世界初の木造の人工衛星を学生チームが作るので、興味があるなら加わらないか」と誘っていただきました。

現在は朝、土井先生が所属する宇宙木材研究室に行って、学部の授業に出て、授業が終わったら研究室に戻って、夜まで学生同士で白熱した議論をしたり、自習したりしています。土日も研究室に行きます。人工衛星の開発は奥が深く、勉強することがたくさんあります。

自ら学ぶきっかけに出会えるかが大事

大学は高校までと違って自学自習になるので、授業を受けているだけだと、しんどいだけだと思います。自分で動けるかどうかにかかっています。大学に入って、高校時代のような探究の環境がないからできないという人がいるとしたら、それは甘えです。環境は自分で作るしかありません。堀川高校の時も、サンプルリターンを研究する環境はありませんでしたが、高校の先生方を含め、さまざまな機関に協力を依頼し、探究を行いました。大学には高校とは比べものにならない設備があり、高校に比べて自由な時間が多いので、自分でやればいいと思います。

宇宙木材研究室にいる学生を見ると、高校時代に探究をしてきた人が多いです。自ら学ぶきっかけに出会えるかどうかが大事で、それは探究に限りません。チームの中には、大学で天体のサークルに入ったことがきっかけになった人もいます。機会はいろいろあり、それに巡り合えるかどうか、そして出会った時に一歩、踏み出せるかどうかです。

堀川高校の1年前期にたたき込まれた「探究五箇条」には大事なことが詰まっていたことを、今になって改めて実感します。五箇条とは、知らないということを知れ、常識を学べ、常識を疑え、手と頭を動かせ、朋(とも)と愉(たの)しめ、です。今も五箇条を思い出して、「これしてないやん」と自省することがあります。特に高校時代の個人探究と違い、今はチームでの開発となっているので、五つ目の「朋と愉しめ」の意味をより痛感しています。一人では研究は成し遂げられない、いい同志をどれだけ持てるかが大事であることを理解しました。

7月に米国の2社の民間宇宙船が顧客を乗せて有人飛行に挑みましたが、こういう時代が来ることは高校時代からわかっていました。宇宙はすごい世界ではなく、取り組まなければいけない世界です。将来、自分が何を宇宙という世界で実現したいのか、学部・大学院での学びの中で確立していきたいと考えています。

※京都市立堀川高校の取り組みはこちら

福王さんが高3の時に完成させた論文
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