「1人1台」の生かし方

ネットいじめ、どう防ぐ? 「傍観する子ども」のジレンマ対処も重要 保護者にできることは

2021.09.29

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葉山 梢
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東京都町田市で昨年11月、小学6年の女子児童が同級生からのいじめを訴える遺書を残して自殺する、痛ましい事件が起きました。市教委が配ったタブレット端末で、チャットに悪口が書き込まれた疑いがあり、市教委が端末の履歴を調べています。ネットいじめを防ぐために何ができるのか、鳥取県情報モラルエデュケーターの今度珠美さんに聞きました。

今度珠美

話を聞いた人

今度珠美さん

国際大学GLOCOM客員研究員、鳥取県情報モラルエデュケーター

いまど・たまみ/全国の小中学校、高校で、年間150校を超える「デジタル・シティズンシップ教育」「メディア・リテラシー教育」の授業を実施。共著に「デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び」(大月書店)「スマホ世代の子どものための情報活用能力を育む情報モラルの授業2.0」(日本標準)など。

「加担しなければいじめられる」ジレンマ

――町田の事件では、自殺した児童の両親が同級生らに聞いたところ、端末上で「うざい」「きもい」といった悪口の書き込みがあった、という証言が複数あったといいます。チャット機能を使ったいじめを防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか。

「利用のルールは与えない。子どもに委ねるのが学び」という学校がありますが、委ねるだけでは放任です。今回の事件の学校もICT教育に力を入れ、子どもの主体性に委ねていたという報道がありました。子どもたちは間違うことがあり、適切な助言は必要です。失敗から学ぶことは大切ですが、何を学べばいいのか子どもはわかりません。なぜトラブルは起きたのか、被害者、加害者、傍観者はどう思ったのか、これから起きないためにはどのような対応が必要か、学びに結びつけて問うのが教育だと思います。

報道では「ルールを決めればいい」というコメントをたくさん目にしましたが、それだけでは不十分です。上から与えられるルール(規則)では、子どもたちが自分ごととして捉えるのは難しい。学校が一方的に与えるルールではなく、子どもとともに相互承認を伴う「約束」を考えることが大切です。私の授業では、自分たちはどのように活用していくのか、「やっていいことといけないこと」を子どもたちが議論し考えます。子どもたちに投げかけると、「変なサイトは見ない」「投稿など行動する前に立ち止まって考える」といった意見が出てきます。そこからさらに、その理由を考えさせることで、自分ごととして捉えられるよう指導しています。

――事件を受け、チャット機能を制限する学校も出てきているようです。

学校の端末でチャットを禁止しても、見えないところで子どもたちはオンラインコミュニケーションをしています。プライベートでの利用は指導はできませんが、先生が見えるところなら学びに結びつけることは可能です。これから情報社会にデビューする子どもたちは、公共での作法を学ぶ必要があります。学校でのオンラインコミュニケーションで、体験の中から必要なマナーを身につけていくことが大切です。

パスワードの管理について学ぶことも重要です。各地の学校でも、パスワードを端末に貼っていたり、黒板に大きく書いていたりするケースを見たことがあります。パスワード管理は、プライバシーを自分で守るためのスキルを学ぶ最初のステップ。パスワードをどう設定して管理し、漏洩(ろうえい)したらどうするのか。自分が忘れないように、また、他人から推測もされないようするにはどうしたらいいか、を考えさせるべきでしょう。

――子どもたちの情報モラルをもっと高めるような指導が必要なのではないでしょうか。

 子どもたちは「悪口を書いてはいけない」「仲間外しは良くない」ことは分かっています。それでもいじめに加担してしまうのは、「悪口に加担しなければ、傍観者にならなければ、自分がいじめられる」というジレンマがあるからです。従来の「情報モラル」は道徳的な心情面から教えることが多かったですが、現実には、教えられたようには行動できない場面があるのです。子どもたちの本音と向き合い、ジレンマにどう対処するのか、丁寧に考えさせる必要があります。

例えば米国のデジタル・シティズンシップ教育では、行動者(アップスタンダー)を育てる教育を小学校低学年から高校まで行っています。いじめの傍観者(バイスタンダー)ではなく行動者になろうという教育です。いじめは、圧倒的多数の「傍観する子ども」がどのように行動するかが非常に重要です。私も下のような教材を作り、この秋から各地で実践していく予定です。

<タマミさんの物語>
タマミさんは誕生日会を開くことにしました。
しかし、家に呼ぶ友達は10人までと両親に言われました。

お誕生会に呼ばれなかったヒカとマユは、SNSのトークに書きました。
「タマミさんの部屋には行きたくなかった」
「誕生日を自分でアピールして信じられないよね」
「誕生会なんて幼稚だね」

そして、ヒカとマユはSNSで、他の友達に誕生日会に行かないようすすめました。
友達にグループトークを見せられたタマミさんは,お腹(なか)が痛くなりました。
次の日、タマミさんは学校を休み、両親に誕生日会も開きたくないと話しました。

●あなたがタマミさんならどのような気持ちになると思いますか。

●なぜヒカさん、マユさんはあのような行動を取ったのでしょう。

●ネットいじめのとくちょうを考えましょう。

●あなたがタマミさんの友達だったらネットいじめを止めるためにどのような行動が取れますか。

米国では、被害者に「共感する」ことを大切にして、周りの友人が「自分だったらどのように行動できるか」を議論し考えていきますが、日本では、自分だけ他の集団と異なる行動を取ることは難しいと思います。自分だけ違う行動をするのに勇気がいるからです。これは大人の社会でも同じ。差別やヘイトスピーチを目にしても、見て見ぬふりをしてしまうのではないでしょうか。1人では難しくても皆で考えれば良い選択肢が見えてくるかもしれない。いじめに遭遇したとき、どのように行動できるか、皆で議論を重ねることが大切です。

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