文系、理系の壁

教育社会学者・河野銀子さん「女子の理系進学を阻むさまざまな理由」

2021.10.04

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中村 正史
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日本は高校の文理選択で文系、理系に分かれ、大学でも文理が交わることが少なく、社会人になっても文系、理系の意識を持ち続ける人が少なくないといわれます。大きな課題の一つは、女性の理系進学者がなかなか増えないことです。理系に進む女子はなぜ増えないのでしょうか、海外に比べて日本はどういう状況でしょうか、女子の理系を増やすにはどうすればいいのでしょうか。女子の理系選択や、ジェンダーと科学技術政策に詳しい教育社会学者の河野銀子・山形大教授に聞きました。(写真は、女子中高生を対象に科学の面白さを伝える立教大のイベント)

河野銀子さん

話を聞いた人

河野銀子さん

山形大学地域教育文化学部教授

(かわの・ぎんこ)武蔵大学人文学部卒、上智大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(社会学)。1996年、山形大学に着任し、2014年から現職。専門は教育社会学、ジェンダー研究。編著書に『新版 教育社会とジェンダー』(学文社)、『女性校長はなぜ増えないのか』(勁草書房)など。日本学術会議連携会員。

独では日本語学専攻でも「生命の起源」をプレゼン

――「文系、理系の壁」の課題として、理工系に進む女子が増えないことがあります。

まず前提として、なぜ理系と女子の問題を考えないといけないか、三つの懸念を押さえておきます。

一つ目は、科学技術のあり方が大きく変わっていることです。世界科学フォーラム2019で「Science for global well being」が掲げられ、カーボンニュートラルに代表されるようなパラダイムシフトが起きています。今までのあり方を変えなければならず、これまで科学技術の分野で活躍していなかった人にチャンスが広がります。日本だと女性です。しかし、科学技術に関する世論調査では、女性はこの分野に関心が低く、技術の進歩についていけないなどの不安を持っています。これは科学技術にとっても女性にとってもよくないことで、女性が参入していかなければいけません。

二つ目は、科学技術政策は文部科学省の中では旧科学技術庁部門が担当しており、初等中等教育部門とは切り離され、連携が弱いことがあります。米国では1980年代にSTEM(科学、技術、工学、数学)の女性を増やそうと法律を作りました。日本の現在の学士課程の男女比は、1980年前後の米国の状況に似ています。その米国でも、STEMの女性は増えていません。両親が大学院修了者の場合、学生がSTEMを選択する傾向があり、女性の間の格差拡大も懸念されています。

三つ目は、理系と女子の問題はいわれますが、男子には問題ないのかということです。大学の中退率は男子の方が高く、入学難易度が下がるほど中退率が高くなっています。入学後のサポートが必要です。難易度が高くない大学には工学系も多く、実質的に男子大学の状態になっています。そういう大学に女子は行こうとはしないでしょう。

――文系、理系の議論は、文系の人にいかに数学やデータサイエンスを学ばせるかという話になりがちですが、一方で理系の人にいかに文系の知識を学ばせるかということも必要です。

全く同感です。私は高大接続も研究していて、先日、ドイツの大学院生にインタビューしました。ドイツでは、ギムナジウム(中等教育機関)の修了のためにアビトゥーアと呼ばれる資格試験を受けますが、筆記試験のほかに、選択した二つのテーマをプレゼンテーションすることになっています。また、どの専攻に進むにしても全教科を学びます。その大学院生の女性は日本語学を専攻していますが、アビトゥーアでは「生命の起源」をテーマにプレゼンしたそうです。

シンガポールや中国・上海では、理系に偏っていることが問題になっています。シンガポールも専門に分かれて大学に入りますが、中等教育の修了試験(GCE-Aレベル)では、専門とは異なる分野の科目も受けなければならない仕組みになっています。日本の大学入試とは大きく違うのです。

ですから文理融合とか、文系、理系の壁とかいう時に、そもそも文系、理系とは何なのかということを考えなければなりません。

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