文系、理系の壁

教育社会学者・河野銀子さん「女子の理系進学を阻むさまざまな理由」

2021.10.04

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中村 正史
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日本は「入り口問題」、欧米は「出口問題」

――国や理工系大学は女子を増やそうと試行錯誤していますが、なかなか増えないのは、なぜでしょうか。

理工系の女子が少ないのは日本だけではありませんが、日本と欧米では段階が違います。日本は大学進学時に理工系分野を選択する女子が少ないという「入り口問題」、欧米は大学を卒業する時に理工系に就職しないという「出口問題」です。

現在、理系に進んでいる女子は学力が高い人です。男子は学力が高くない人も工学系に進んでいます。理系に進む女子は医学部などクオリティーの高い特別な女子だけで、親も理系進学を理解しています。

そういう人を見ていると、理系には女子のエリートしか行けないと感じ、自分には無理と思う女子が少なくありません。ロールモデルの見せ方を失敗しています。自分も行けると思うような、いろいろなロールモデルを見せないといけません。数学や理科が好きな女子は、コンスタントに1割います。プラスアルファで理系進学を迷っている人や、グレーゾーンにいる人たちの背中を押してあげないと、理系に進む女子は増えません。

――親の影響も大きいでしょう。

学力はペアレントクラシー(親の影響力)で決まるという研究が多くあります。子どもにとって親は変わらないので、学校で工夫するしかありません。

教材や教授方法の改善が必要です。英国をはじめヨーロッパでは、女子の関心を引きつける教材開発が行われ、学び方も女子が嫌う競争的な授業だけでなく、協力してグループで学び合う授業も取り入れるようになっています。

教科書の問題もあります。日本の教科書のイラストを見ると、いまだにケーキを作っているのは女性で医師は男性とか、薬剤師は女性でコンピューターエンジニアは男性といった絵が載っています。こうした「隠れたカリキュラム」に何年もさらされ、子どものアンコンシャス・バイアスを作るのに教科書が加担しています。

――学校の役割が大事となると、教員養成が重要になりますね。

小学校の教員は6割以上が女性ですが、中学・高校では、社会、数学、理科の教員は女性が3割を切ります。高校では、地歴・公民の女性教員は数学より少ないです。担当教科を持つ中学・高校の教員は、教員養成系の大学より一般の大学の出身者が多く、専門には強いですが、生徒理解など教育には弱い面があるといわれています。

気になるのは、ジェンダーバイアスは女性教員の方が強いことです。「管理職には男性の方が女性より向いている」「理数系は男子の方が女子より能力が高い」と思う割合は、女性教員の方が男性教員より高く、また年代が若い教員ほど高くなっています。

――理系に進む女子を増やすには、解決すべき課題が多いです。

これが女子の理系進学を阻むボトルネックだとわかれば、解決は簡単ですが、なかなかそうはいきません。学校にアプローチするのがいいです。日本でも教科書や授業を工夫する動きが見られます。数学教育学の瀬沼花子・玉川大学教授から聞いたのですが、例えば数学の教科書に「仕事の中の数学」というエッセーを取り入れ、女性パイロットが出てきて海外との時差を計算し、負の数を学ぶものがあります。

海外では、数学の試験はペーパーテストを解くのではなく、プレゼンを審査するところがあります。求められるものが変わってくれば、女子の数学嫌いも変わってくると思います。今は「数学が好き」と言うと、「女の子らしくない」と言われるので、とりあえず「嫌い」と言っておこうということもあります。学び方や評価の仕方を変えていくことが必要です。

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