文系、理系の壁

女性教員向けプログラミング研修、スタートの背景は 「ITは男性の仕事」先入観変えるために

2021.11.11

author
夏野 かおる
Main Image

2020年から小学校ではプログラミング教育が必修化しました。「ITは男性の仕事」というイメージがある中で、ジェンダー平等を実現するために、どのような働きかけが行われているのでしょうか? 小学校の女性教員向けに特化したプログラミング教育の教員養成プログラム「SteP(ステップ)」を開催するみんなのコードとWaffle(ワッフル)に聞きました。

Sayaka_Tanaka

話を聞いた人

田中 沙弥果さん

一般社団法人Waffle CEO & Co-Founder

(たなか・さやか) 1991年生まれ。2017年NPO法人みんなのコード入職。文部科学省後援事業に従事したほか、全国20都市以上の教育委員会と連携し学校の先生がプログラミング教育を授業で実施するための事業を推進。2019年にIT分野のジェンダーギャップを解消するために一般社団法人Waffleを設立。2020年には日本政府主催の国際女性会議WAW!2020にユース代表として選出。Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。2021年内閣府 若者円卓会議 委員、経済産業省 デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会 委員。

Moe_Tanaka

話を聞いた人

田中 萌さん

埼玉県 公立小学校教諭

(たなか・もえ) プログラミング教育を研究・実践・報告するNPO団体「Type_T」理事。みんなのコードプログラミング指導教員養成塾修了。小学校教諭として活躍する傍ら、プログラミング教育の面白さやいろいろな実践を、全国の先生たちに知ってもらえるようにType_Tにて日々活動中。「とにかくやってみる!」が合言葉。

Masaki_Takeya

話を聞いた人

竹谷 正明さん

特定非営利活動法人みんなのコード 主任講師

(たけや・まさあき) 東京都公立小学校教諭として30年間勤務。1人1台端末やプログラミングを取り入れた授業の実践に取り組む。2017年、みんなのコードに参画し、講師として全国の学校や教育委員会にてプログラミング教育普及のための研修等の活動を進めている。

ITエンジニア、女性は2割 教員の意識改革が急務

——まず、今回、小学校の女性教員向けに特化したプログラミング教育の教員養成プログラム「SteP(ステップ)」を開始された背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。

田中(沙):私は2017年ごろからNPO法人みんなのコードで働いており、竹谷さんと一緒に全国各地でプログラミング教育に関する研修を行ってきました。この「プログラミング教育指導教員養成塾」には、全国からたくさんの先生方が参加してくださったのですが、8割以上が男性教員だったんです。

文科省の「学校基本調査」によれば、小学校教員の61.6%は女性。全体で見れば女性教員が多いのに、プログラミング教育の研修となると、男性ばかりになるのはなぜなのか? そのような問題意識から、みんなのコードのメンバーと話し合い、“女性教員に向けた研修”が必要なのではないかと考え、教員養成プログラム「SteP」開始に至りました。また、StePは、アドビ株式会社の助成金プログラム「Adobe Employee Community Fund(ECF)」にもご支援いただき、無償で提供することができました。

SteP_1
StePでは参加者である教員が授業実践にチャレンジしやすいよう、実践例の紹介も行われた

田中(沙):理数系を女性教員が教えることの意義は大きなものです。内閣府の「女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」(平成29年度)によると、中学校で理数科目(数学・理科)を1科目でも女性教員から教わっている女子は、2科目ともに男性教員から教わっている女子と比較して、自身を「理系タイプである/どちらかといえば理系タイプである」と評価する割合が11.3%高くなるそうです。この結果からは、「学校の先生」という身近な大人に“理系の女性”がいるかどうかが、女子の進路選択に大きく関わることが示されています。

SteP_2
出典:「女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」(内閣府) (https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html)

田中(沙):では、同じく“男性のもの”と見なされがちなプログラミング教育においても、女性教員をサポートするような取り組みが必要になるのではないか。それが、「SteP(ステップ)」を開催したねらいです。

田中(萌):現場の女性教員としても、ジェンダーバイアスを強く感じる場面は多々あります。通常、教科ごとの研修会には各教科の主任が出席することが多いのですが、そもそも、校長が主任を任命する時点で、ジェンダーによる偏りが出てしまいがちなんです。それこそ、「情報科主任は男性」「体育科は若い男性」のように、性別や年齢を理由に任命される場合もあります。また、家庭科や低学年の指導など、ケアラーとしての役割が求められるポジションには、女性教員が当てられることが多いですね。

私は自ら申し出て、プログラミング教育の研修会に出席できましたが、他の男性教員から「(女性なのに)情報科についてよく知っているね」などと声をかけられたことがありました。こうした環境では、女性教員が研修に参加しても、居心地の悪い思いをしてしまうのが現状です。

田中(沙):教員の意識改革はとても大切です。とくに地方だと、いまだに根強い偏見が残されているなと感じます。これは実際にあった事例ですが、「女の子は体力がないから、理系の研究室生活にはついていけない」「理数系は苦手だろうから、文系にしておいたら?」などと進路指導で伝えられた女子生徒がいるそうです。他にも、教室で男女交互に机を並べて、「女子は男子に教えてもらいなさい」などと言われたケースもあると聞きました。

最近の子どもにはインターネットやSNSという強力な情報源がありますから、中には「これはおかしい」と気付く子もいます。しかし、やはり家庭や学校の影響は大きいもの。ジェンダー格差を再生産しないためにも、教員や保護者世代の意識を変えていく必要もあると思います。

バックナンバー
新着記事
新着一覧
新着一覧

ページトップ