新しい教育のカタチを考える

探究学習のスイッチどう入る? 延べ25万人以上が参加した「クエスト」に見る

2021.10.12

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柴田菜々子
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来年度の新入生から高校の新科目になる「探究」。これを先取りする形で、教育と探求社が2005年に始めた教育プログラムが「クエストエデュケーション」です。企業からのミッションなどに中高生らがグループワークで取り組み、プレゼンテーションするもので、参加者数は延べ25万人以上。朝日新聞社は2020年度に協賛し、授業訪問や審査を担当した筆者は、考え抜かれた熱量あるプレゼンの数々に驚かされました。探究のスイッチはどうやって入るのか? 導入校、協賛企業、プログラム提供者の3者に話を聞きました。(写真は、全国大会でグランプリとカルビー賞を受けた新潟県立津南中等教育学校「チームうすしお」のオンライン発表=2021年2月)

【導入校】企業の人が見に来る「事件」が転機に

林 祐希さん

話を聞いた人

林 祐希さん

新潟県立津南(つなん)中等教育学校教諭

(はやし・ゆうき)英語科教諭。2020年度、クエストの授業を初めてメインで担当。

――クエストの企業探究部門「コーポレートアクセス」を導入して4年目の2020年度、グランプリ受賞チームが出ました。この部門は、課題となる企業のミッションが特徴的です。

中学3年生が取り組みました。年間24コマのうちの最初の授業で、「なくなったら困る会社はどこ?」という問いかけについて広く意見を出し合い、その後、協賛企業の中から「インターン先」を選び、ミッションを受け取りました。

たとえば、「人が生涯のなかで『学ぶ瞬間』を最大化できるいまだここにない仕組みを提案せよ!」(博報堂)とか、「『成熟した若者』が動き出す朝日新聞の社会を豊かにする新サービスを提案せよ!」(朝日新聞社)などのミッションがありました。正解がなく、抽象的で、大人でも考え込んでしまうようなものなので、生徒たちは解釈に戸惑っていました。

――中間発表の段階から、独創的なプレゼンが多い学校だなと感じました。探究学習のスイッチが入った瞬間はありましたか。

学年全体にもともと、ほかの人のアイデアに「いいね!」と言い合える良い雰囲気はあったのですが、本格的にスイッチが入ったと感じたのは、中間発表の日が決まったときです。新型コロナの影響でオンライン開催になったことで、複数の企業の方がオンラインで見学してコメントをくださることになりました。特に地方の学校にとっては、それは「大事件」です。私の方でも、「全国的に有名な企業の方がせっかく発表を見てくれるのに、中途半端な内容だと失礼になるよね」とか「今の自分たちが考えたアイデアを形にしよう」などと声をかけたのですが、各チームが自発的に放課後などの時間を使って、話し合いを進めるようになりました。クエストでは教員は教えるというより「ファシリテーター」という立場になります。私は、もっと探究を深められるよう、他教科の先生にも時間をもらったりして、調整しました。また、正解を知っている立場ではないので、一緒に考えていましたね。生徒のアイデアを否定せず、それを発展させるために、「私だったらこうするかな」「この部分は詳しく説明した方が、伝わりやすいんじゃない?」といった感じで声もかけました。私を含めた教員5人で各グループの様子を見てまわってそれぞれの考えを話したこともあったのですが、その考えを採用し、行動に移すかどうかは生徒たちに任せました。

中間発表で企業の方々からいただいたご助言やご指摘はとても刺激的だったようで、発表の翌日、授業でクエストをする際には、始業のチャイム前から生徒たちで集まって、探究をしていました。その姿は今も印象に残っています。

――グランプリ受賞チームはどんな様子だったのでしょうか。

「チームうすしお」という男女4人からなるチームで、カルビーのミッション「ここからの、あたりまえを私たちがつくる。『すべての命がワクワクする』食の未来を描いたカルビーの企業CMを提案せよ!」に取り組んだのですが、「夏の3カ月くらいは解釈に苦しんだ」と話していました。中間発表では、寄付モデルで飢餓に苦しむ人を救う提案をしていたのですが、別の企業の方から寄付モデルについて「収益の一部を寄付することは、いまやどの企業もやっている。困っている国をどう助けたら良いか、さらに探究できると思います」というようなことを言われて。その後、最終発表が迫っていても、納得する提案ができあがらず、「どうしよう」と放課後も考え続けていました。

放課後、私も同席して見守っていたのですが、あるとき誰かが「おなかすいた!」と言ったんです。そうしたら、「おなかがすくって幸せだよね?」という話になって。そこから、「飢餓で苦しむ人はそうじゃないよね」「じゃあどうしたらいいかな」と、寄付モデルから離れて、「すべての人が『おなかすいた』を幸せに感じられる事業」というコンセプトが一気にできあがりました。最終的には、ミッションを「すべての人々がおなかすいたを楽しめる世界を描いた企業CM」と自分たちの言葉に言い換え、農業のやり方を教える船「ぽて島(とう)」で飢餓を救うというアイデアを提案しました。

振り返ると、あきらめずに、自発的に集まったのが良かったのだと思います。小道具や寸劇づくりなどの演出にも力を入れていました。こちらも「全国大会あるんだよ」などと緊張感を与えて、意識づけはしていましたが。

――学年全体の雰囲気が、グランプリ受賞に大きく貢献したと考えているそうですね。

この地域の子どもたちの持つ素直さからか、みんなでがんばろうという雰囲気がありました。だからこそ、チームうすしおもあそこまで粘って考え抜いたんだと思いますし、どのチームも互いに良い影響を与えてくれました。みんなで取り組んだ結果だと思います。

新潟県立津南中等教育学校のプレゼンテーション。力作揃いの全国大会でも、楽しい演出が光った
新潟県立津南中等教育学校「チームうすしお」のプレゼンテーション。力作ぞろいの全国大会でも、楽しい演出が光った

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