学習と健康・成長

高校授業で来年度から「資産形成」、投資の知識を学ぶ理由は? 金融庁に聞く

2021.11.10

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夏野 かおる
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2022年度から、高校家庭科で「資産形成」の内容が必修化します。金融庁では出前授業を行うほか、クイズで楽しくマネーリテラシーを身につけられるサイトを公開するなど、積極的に取り組みを進めている模様。「子どもにお金の話はタブー」が変わりつつある理由とは。そして、気になる授業の中身とは。金融庁に聞きました。

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話を聞いた人

中村 香織さん

金融庁 総合政策局 総合政策課 総合政策管理官

(なかむら・かおり)2006年、金融庁に入庁。2020年7月より現職で金融経済教育を担当。高校や大学を中心とする出張授業や授業用動画教材の作成、小学生向けのコンテンツ作成のほか、安定的な資産形成の促進の一環として「つみたてNISA」の普及促進などに取り組んでいる。

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話を聞いた人

上大谷 起一さん

金融庁 総合政策局 総合政策課 課長補佐

(うえおおたに・きいち)2012年、新卒で金融庁に入庁。2017年に一度金融庁を退職し、コンサル、ベンチャーを経て、2019年に金融庁に中途採用で復職。2021年7月より、金融経済教育担当。

改訂の背景にある、成人年齢引き下げとライフプランの多様化

――まず、今回の高校家庭科の学習指導要領改訂では、「お金」に関してどのような内容が加わったのでしょうか。

中村:大きなポイントは家計管理の一部として、「資産形成」の内容が加わったことです。

これまでの家庭科の「お金」に関する内容は、どちらかというと消費生活における注意点に主眼が置かれていました。分かりやすく言うと、「買い物をする際にどのような点に気をつければよいか」「短期的にも長期的にも、収入と支出のバランスをとることが重要」といった内容です。

一方の新学習指導要領では、さまざまな金融商品への理解を含め、より積極的に経済の計画が立てられるように指導する内容となっています。進学、住宅取得、老後、といったライフイベントはもちろん、病気や失業のリスクに対してどう備えれば良いのかを考え、生涯を見通した計画を立てられるように指導する構成になっているのです。

その中でも、多くの方の関心を集めているのが、学習指導要領の解説に「預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする」という部分でしょうか。日本の家計は現預金の保有割合が多くなっています。でも、ただ銀行に預けているだけでは、お金を“守る”ことはできても“増やす”ことはできません。それならば、リスクを理解した上で、ニーズに応じて金融商品の保有も検討した方が良いのではないか。そうした観点から、高校家庭科の授業において、まずは資産形成の必要性と、各商品の基本的なメリット・デメリットを指導することになったと理解しています。

民法が改正され、来年(2022年)の4月1日からは、成年年齢が18歳になります。つまり、今の高校生たちは、高校を卒業した時点で、一人の大人として行動できるわけです。それを踏まえると、高校生のうちに、金融リテラシーを身に付けておくことが望ましい。今の社会において、お金とまったく関わらない生活は、まずありえませんから。

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中村:そして、成年年齢の引き下げ以外にももうひとつ、改訂のねらいがあります。それが、ライフプランの多様化です。

すでに言い古されたことかもしれませんが、これまでの社会には、ライフプランにある程度の“型“がありました。つまり、一昔前までは、学校を卒業して、会社員になり、30歳前後で家庭を持ち、住宅を購入し、定年まで勤め上げる……というような人生設計が主流の時代だったと言えます。

しかし現代では、このようなライフプランが必ずしも主流ではなくなり、働き方や暮らし方について、非常に多様な選択肢を持てるようになりました。それ自体はむろん、素晴らしいことですが、「資産形成」の観点から言えば、以前よりも難易度が上がったことは否めません。というのも、先人に倣えばよかった時代と比べ、より能動的に情報を獲得し、自分に合った資産形成の方法を選びとる必要が出てきたためです。

お金と上手に関われるようになると、生き方の選択肢が広がり、ウェルビーイング(※)につながります。「お金は怖いもの」「あまり考えたくないもの」と怖がらず、自分らしく生きていくために適切なリテラシーを身につけていただきたいですね。

(※)心身ともに良好な状態。幸福とも訳される。

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