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高校授業で来年度から「資産形成」、投資の知識を学ぶ理由は? 金融庁に聞く

2021.11.10

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夏野 かおる
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他人事じゃない、多重債務などの金融トラブル

――「お金は怖いもの」として避けていると、将来、どのようなトラブルに巻き込まれる可能性が高くなりますか。

中村:家計管理や資産形成について、知っておいていただきたいことがあります。それは、「多重債務といった金融トラブルは、決して『遠い世界の話』ではない」ということです。

私(中村)はかつて、多重債務対策の担当をしていました。多重債務者、つまり、借金で生活がままならない方というと、大半の方は“ギャンブル依存”や“買い物依存”といった、ある種極端なケースを想像されますよね。でも、実際には “普通の人”が、ちょっとしたきっかけで破綻し、多重債務に陥るケースが少なくないんです。

——具体的には。

中村:たとえば、そもそもの収入が低く、日々、ぎりぎりの状態でやりくりしている方がいたとします。日常生活はなんとか営めていたけれども、ある日、車検や冠婚葬祭といった、突発的な出費が発生し、一時的にキャッシング(借金)に手を出してしまった。ひとまずそれでしのいだはいいものの、もともとの生活がぎりぎりなため、返済がままならない。仕方がないので、他から借りて返す。こうして、多重債務に陥る……。

あくまで一例ですが、このような流れで多重債務に陥る方が、みなさんが想像している以上に多いのです。だからこそ、高校生の皆さんには、日頃から家計バランスを意識したり、事故や病気、失業のリスクに備えたりといった基礎知識を身につけて欲しいですね。

まずはお小遣いのやりくりから。適切な知識で人生を豊かに

――金融リテラシー教育の浸透のために、金融庁としてはどのような取り組みを行なっていますか。

中村:大きく分けて2つあります。1つは、金融庁の職員が出張授業をしたり、コンテンツを公開したりする活動。もう1つが、家庭科の先生方に向けた研修活動です。

前者については、金融庁はもちろん、日銀の金融広報中央委員会なども積極的に行っています。代表的なのが「知るぽると」というWebサイトで、お子様向けのページやトラブルへの相談窓口など、幅広いニーズに対応できる内容となっています。

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金融広報中央委員会「知るぽると」

中村:また、金融庁では、大人気の『うんこドリル』とコラボした、お金の使い方を楽しく学べるコンテンツを公開しています。小学生でも理解しやすい内容となっていますが、大人の方からも「意外と勉強になった」という意見もいただきました。ちょうど先日(10月20日)、第2弾を公開しましたので、ぜひ一度チェックしてみてください。

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小学生向けコンテンツ「うんこお金ドリル」(うんこドリル×金融庁)

中村:なお、後者の研修活動については、家庭科の先生方との意見交換を行うほか、モデル授業のようなものが作れないか、現在準備をしているところです。コロナ禍で現場の先生のご負担が増す中、お時間をいただいて心苦しい面もあるのですが、私たち職員が直接学校へ出向くだけでは、どうしても限界があるので……。資産形成を「一部の人だけのもの」にせず、身近に感じてもらえるよう、日々試行錯誤しています。

――「お金を身近に」となると、学校教育以外にも、家庭でもできることがありそうですね。具体的には、どのようなコミュニケーションをとるとよいでしょうか。

中村:お子さまの年齢にもよりますが、やはり身近なところでは、お買い物に行った際に簡単な計算をさせてみるとか、お小遣いの使い方を指導するといったところから始まるのかなと思います。たとえば、「来月、〇〇のイベントがあるよね。そこでお土産を買うために、お小遣いを残しておこうよ」と声を掛けるなどでしょうか。収支バランスは何よりの基本ですので、小さな頃から少しずつ身につけていただくとよいかと思います。

それから、保護者世代がよく驚かれるのが、「今の子どもはあまり現金を知らない」事実。キャッシュレスが浸透した結果、お金は「ピッ、とするもの」のような認識で、“お釣り”の概念を知らない子もいると聞いたことがあります。キャッシュレスは便利ですが、使った実感が薄くなりがちです。かといって、「キャッシュレスは危険なので、現金に限る」といった対応の仕方では、時代の流れとも合いませんし、そもそも問題を先送りにしているだけかもしれません。お小遣い帳や、アプリを上手に使うなど、色々工夫していただければと思います。

上大谷:お金との付き合い方は、人と人とのコミュニケーションに似た部分があります。びくびくしすぎるのも良くありませんし、無神経すぎるとトラブルにつながるもの。大人も子どもも、適切な金融リテラシーを身につけ、ウェルビーイングを実現していただければと思います。

(編集:野阪拓海/ノオト)

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