どうなる中学・高校入試
聞いて解く算数、スマホ持ち込みOK……私立中で広がる「新タイプ入試」 筆記で測れない力を問う狙いとは
2021.11.09

私立中の入試で、国算社理の4科型ではない新タイプの入試が広がっています。2021年度の入試では、聞いて解く算数や、実験映像を視聴する理科の出題がありました。どのような狙いがあるのでしょう。(写真は、海陽中等教育学校の視聴型入試=同校提供)
教員でもできない「聞いて解く問題」
「ある船が地点Aから北に向かって走りました。この船は2時間30分で60㎞の距離を走ります。地点Aから灯台は北西に見えました。船が走り出して30分後にもう一度灯台を見たところ、ちょうど西に見えました。このとき、船から灯台までの距離を求めなさい」
芝浦工業大付属中(東京都江東区)の21年度入試で出た算数の問題だ。文字で見るとさほど難しくないが、受験生には問題文は配られず、教室のスピーカーから一度だけ流れる問題の音声を聞いて答えなければならなかった。同校の斎藤貢市・広報部長によると、教員でもできない人が多く、受験生の正答率もこれまでより下がったという。
なぜこのような問題を出したのか。斎藤さんは「背景には、現場の問題意識があった」と明かす。「耳で聞いた情報や指示に反応できない子がいて、そうした子は成績も伸び悩む傾向にあるという声があった」
「聞いて解く問題」は、計4回の入試のうち2回の国語と算数で出題した。配点はどちらも120満点中で20点程度に抑えた。「それで合否を決めるというよりは、ボーダー層のうちから聞くことが得意な子を採るのが目的」(斎藤さん)のためだ。
同校は今年度、男子校から共学に変わった。同時に、ITとグローバルコミュニケーションの二つの探究活動に取り組むなどの教育改革も実施した。これらの改革や入試の見直しで、「今年の新入生は男女問わず、活発に意見を言う子が集まった」(同)といい、22年度は回数と教科を増やし、特色入試をのぞく3回の算数、国語、理科で実施する。
斎藤さんは「本校を第一志望として対策をとってきた子どもに受けてもらいたい。保護者が小4~5レベルの文章題を読んで聞かせて子どもにメモをとらせたり、親子でニュースについて話して伝達力やコミュニケーション力をつけたりしてほしい」と話す。
「未来のテストを受けているみたい」
海陽中等教育学校(愛知県蒲郡市)は今春、複数回実施した入試の一部で、国語、理科、社会をiPadを使った「視聴型総合問題」にした。国語はコンビニエンスストアに関するニュースを模した音声を聞き、選択肢を選んだり自分の考えを書いたりする形式。理科は水溶液の実験映像、社会は選挙に関するグラフなどの映像と音声を視聴して答える問題だった。配点は従来型の算数が100点で、視聴型になった国語、理科、社会は3教科で計200点だった。
同校は問題解決力や対人能力、自己管理能力を身につけることを目的として全寮制を採っている。西村英明校長は「寮生活で一番大事なのは、人の話をしっかり聞けること。今の子は自分のことを話すのは得意だが、人の話を聞くのは苦手な子も多い。人の言ったことを踏まえて自分の考えを話せるコミュニケーションの芽を持つ子に来てほしい」と視聴型問題に変更した狙いを語る。
受験生からは「面白かった」「未来のテストを受けているみたい」といった感想が寄せられた。一方で、自分の考えを書く問題や、資料を読み解いて表現する問題では大きな差が出たという。「この入試を経て入学した生徒は、授業を聞いて理解する力が高いと想定している。成績が今後どのように変化するかを追って検証していきたい」と西村校長。より多くの受験生に興味をもってもらうため、22年度入試は試験の名称を「適性検査型」に改め、同様の視聴型問題を出す予定だという。