2025大学入試どうなる

「歴史総合は世界史だ!」時代と国、抽象と具体、行き来して思考する力を 世界史専門塾ゆげ塾に聞く

2021.11.29

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山下 知子
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2022年春に高校に入学する生徒(現中学3年)から、「歴史総合」が必履修となり、その生徒が高校3年生になる25年に実施される大学入学共通テストから「歴史総合」が加わり、今までのように、日本史だけ、世界史だけでは受験できなくなります。今年3月には、文部科学省の検定を終えた教科書が、大学入試センターから共通テストのサンプル問題が、それぞれ公表されました。いったいどんな科目なのでしょうか。東京・池袋で世界史専門塾を主宰するゆげひろのぶさんに、サンプル問題の評価や勉強する際に大切にしたいことについて聞きました。(写真は、3月に公表された、大学入学共通テストの歴史総合サンプル問題)

ゆげひろのぶ

話を聞いた人

ゆげひろのぶさん

世界史専門塾ゆげ塾塾長

1976年、熊本県生まれ。予備校講師などを経て、2007年、東京・池袋に世界史専門塾ゆげ塾を開く。著書に「ゆげ塾の構造がわかる世界史」「ゆげ塾の中国とアラブがわかる世界史」(ともにゆげ塾出版)、「なぜ、指揮官は馬に乗るのか? 組織で悩むアナタのための世界史」(星海社新書)、「ゆげ塾の速修戦後史 欧米編」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。20年4月から映像授業の販売、21年からYouTubeでサブスクリプション(定額制)動画配信を開始。

「社会科は塾不要」は終わる? 問われる思考力

――2022年春に高校に入学する生徒から、「歴史総合」が始まります。

歴史総合は、近現代の日本史と世界史の融合をうたっていますが、実質的には世界史です。4社(山川出版社、帝国書院、実教出版、東京書籍)それぞれの世界史の教科書でサンプル問題は全て解けます。一方、日本史の教科書では解けても6、7割ではないでしょうか。歴史総合はとりあえず、「これまでの世界史を基盤に、日本に関する部分が厚くなった」と考えていいと思っています。

もちろん、それだけで歴史総合は語れません。史料・資料を読み取る力や思考力が問われています。極端な話、これまでの日本史・世界史は努力以外に差は生まれにくい科目でした。概して、暗記科目でした。しかし、歴史総合は教師に求められる指導力がより高度になり、教師や学び方によって点差が大きくつくものになります。歴史総合が始まると、今までの「社会科は塾不要。自勉するもの」という時代は終わるのではないでしょうか。塾経営者としてはチャンスですが、学校できちんと学べれば塾は不要であるとも思っているので、複雑な心境です。

3月に公表された、歴史総合の教科書=2021年3月
3月に公表された、歴史総合の教科書=2021年3月

――2025年大学入学共通テストのサンプル問題はどう見ましたか。

例えば大問2の後半部分は、国民国家の形成をテーマとしていましたね。その中でも問6は良問だと考えます。極めて抽象的な事柄を尋ねていました。

歴史総合の土台となった世界史という科目は、実は、極めて抽象的な科目です。基本的に難しいのです。ただ、抽象的なネタには、限りがあります。パターンがあります。用語で言えば、ナショナリズム、全体主義、主権、民族、憲法、自由……ざっと数えて20ぐらいでしょうか。こうした言葉を単に覚えるのではなく、概念として理解し、その形成過程や具体的事例を意識的に追いかける必要があります。

例えば、ナショナリズムであれば、機械が登場して、たくさんの工業製品を強引に売りつけようとする国が出てくる。それに対して、集団で防衛しよう……みたいな過程です。具体的に言えば、イギリスの産業革命に対抗するために、ドイツ関税同盟を経て、ドイツ帝国ができ、日本も関税自主権回復を目指し、国民国家の形成を急いだ……という歴史認識です。

――教科書検定も終わり、教科書が公表されました。どう見ましたか。

入試問題は大きく変わっているのに、教科書は変わっていません。教科書は、今までの日本史と、今までの世界史の通史のミックスです。一方、歴史総合のサンプル問題は、テーマを掲げ、地域・時代が、良い意味で、飛びまくっています。大問1の問2の「自由」の問題が好例です。キング牧師の人種差別反対演説、平塚らいてうの「元始、女性は太陽であった」、フランス人権宣言、ガンジーの反植民地主義の資料が提示されています。そして、これらを扱う、教科書のセクションは全て違います。

確かに、今回のサンプル問題は教科書の検定中に作成した問題で、教科書と照合したものではありません。しかしながら、歴史総合の狙いは、明らかに、サンプル問題のほうです。つまり、入試問題は変わっているのに、教科書は変わっていない。我々、教える側が変わらなくてはいけないのです。

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