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少数言語、「役に立つから」ではない価値 九州大学大学院下地理則研究室

2021.12.15

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白石 圭
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◇九州大学大学院 下地理則研究室 人文科学研究院

話者が極端に少ないことで「消滅」の危機にさらされる少数言語。これをテーマにフィールドワークを行うゼミがある。やがて消えるかもしれない言葉を研究する意味とは。

「少数言語には辞書や文法書が存在しません。言語の習得が最初のハードルです」

話者の少ない少数言語研究を専門とする下地理則(みちのり)准教授が長期にわたって研究しているのが、沖縄県・伊良部島の一部で話される伊良部島方言だ。研究の基本はフィールドワーク。現地に渡り、まずは頭を指す仕草などで、体の部位の名称から聞いていく。そのうち「これは何と言う?」という意味の疑問文を獲得。そうして400、500語の単語を記録したところで、「食べる」「食べた」など、動詞の活用形の調査が始まる。

「『食べることは何と言うんですか?』と聞くと、伊良部島の人は言葉を詰まらせました。というのも、標準語では『毎日食べる』のも『明日食べる』のも同じ『食べる』ですが、伊良部島方言では現在形と未来形で『食べる』の言い方が全く変わってしまうからです。常識を捨てて取り組む姿勢が、フィールドワークでは求められます」

言語が減ることって問題ですか?

今、世界には約6千の言語があると言われている。しかしそのうちの9割は、悲観的な予測では今世紀中になくなると見られている。

「『言語が減ることって問題ですか?』と聞かれることもあります」と下地准教授は言う。少数言語を擁護する考え方には、多様性があり文化研究に重要、その言語にしかない語彙が実は重要な知見をもたらす、などといったものがあるという。例えばある少数言語は、植物に関して西洋科学で知られるよりもはるかに多い語彙をもち、この知識が製薬に役立つのだという。

「でも私はそうした擁護のしかたに賛成できないのです。それは結局、言語には役に立つものと立たないものがあるということを前提にしたもので、少数言語を消滅に追いやってきたロジックそのものだからです」

そこで無視されているのは、少数言語話者自身が感じるアイデンティティーや人とのつながりだ。「少数派が排除され切り捨てられていく社会の表出の一つとして言語の消滅がある」と問題意識を募らせる。

博士課程時代は少数言語研究の拠点であるオーストラリアに留学しつつも、自身のルーツを探るため伊良部島の言葉を研究した下地准教授。「数ヶ月の長期滞在を3回行い、博士論文を完成させました」(写真提供/下地准教授)
博士課程時代は少数言語研究の拠点であるオーストラリアに留学しつつも、自身のルーツを探るため伊良部島の言葉を研究した下地准教授。「数ヶ月の長期滞在を3回行い、博士論文を完成させました」(写真提供/下地准教授)
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