2025大学入試どうなる

地理総合は「思考の土台となる知識を確実に」 代ゼミ講師・宮路秀作さん

2021.12.03

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山下 知子
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2022年春に高校に入学する現中学3年生から、「地理総合」が必履修となります。その生徒らが高校3年で受験する2025年実施の大学入学共通テストにも、地理総合が加わります。今年3月には、大学入試センターから共通テストのサンプル問題が公表されました。どんな問題だったのでしょうか。代々木ゼミナール講師の宮路秀作さんに、学び方とともに聞きました。(写真は、3月に公表された大学入学共通テストの地理総合サンプル問題)

宮路秀作

話を聞いた人

宮路秀作さん

代々木ゼミナール地理講師

(みやじ・しゅうさく)鹿児島県生まれ。講義の指針は「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)はベストセラーとなり、17年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。著書はほかに、『カリスマ講師の日本一成績が上がる魔法の地理ノート』『大学入試 マンガで地理が面白いほどわかる本』(いずれもKADOKAWA)、『中学校の地理が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)など。21年から日本地理学会企画専門委員会委員。

大問の中に「ストーリー」

――3月、大学入試センターからサンプル問題が公表されました。問題をどう見ましたか。

大問ごとにテーマが据えられ、ストーリー性があって、一つの読み物としても面白いと感じました。受験生は、手持ちの知識を使って推察していくことが要求されます。思考の土台となる知識のない受験生は苦労するでしょう。「思考力が大事」というのであれば、より知識が大事であることは理解しておくべきと思います。

大問2の問3は良問ですね。地理総合の一つの柱は防災。過去の自然災害をもとにして問題が作られていますが、これを通じて未来を読むヒントにしようという作問者の意図を感じます。自然現象に関しては、知見を超えた規模で災害が発生することがあり、時に備えが役に立たないこともあります。だからこそ、「過去に学び、未来を読む」ことがこれまで以上に必要になってきます。

今年1月にあった第1回の大学入学共通テストは、統計資料の読み取りが増えました。資料を読み取るには、やはり背景を理解した上で知識を身につけておくべきです。

――知識が大事というと、まずは暗記ということですか。

単なる暗記ではなく、知識を入れる時は別の知識とつなげてください。知識の連鎖を意識して覚えていってほしいと思っています。地理学では、知識が連鎖して紡ぎ出された物語を「景観」といいます。地理を学ぶ上で、この「景観」を丸ごと理解していく意識が大事です。

例えば、夏に雨が少ない地中海性気候。雨が少ないから雲があまり出ない、雲があまり出ないから日射しが強い、だから果物栽培に適している、といった知識の連鎖を意識してほしいです。また「イタリア・ローマの雨温図はこれ」として頭に入れるのではなく、地図を開いてみてください。「地中海性」といいながら世界中に分布し、米サンフランシスコやオーストラリアのパースなど、多くは大陸の西部にあることに気付けるはずです。大陸の西部にあるということ、そしてそのからくり、つまり原理・原則を調べ、頭に入れていってほしいのです。

地中海性気候の分布。大陸の西側に多い=帝国書院「新詳地理資料COMPLETE2021」から
地中海性気候の分布。大陸の西部に多い=帝国書院「新詳地理資料COMPLETE2021」から

――気付き、が大切だと。

その通りです。気付いて、「あ、そういうことか!」と思えてこそ知識は確実に獲得できます。まず大切なのは、日々、知識を増やしていくこと。知識が増えていけば、気付きのチャンスは増えます。まずは教科書に書いてある内容を確実に覚えていきましょう。基本は教科書です。

気付きのセンスを育てるのは、周囲の大人の働きかけも必要だと思います。「なんで浜松って楽器の街なんだろうね?」などと、「これ、なんでだと思う?」と問い続けることで育まれると考えます。幼い頃からでも、もちろん高校生になってからでも、いつからやっても積み重ねられるはずです。

――なかなか難しそうです。

オススメの一つは、物産品への着目です。山や川の位置、名前だけでなく、なぜその品が特産品となりうるか、と考えてみてください。

例えば、先ほどの浜松市ですが、なぜ楽器の街になったのでしょうか。浜松市には天竜川が流れています。長野県の諏訪湖から始まる天竜川は流域に山々が連なり、大きな森が広がっています。そこで採れる木材は、天竜川を使って下流に運ばれ、木材加工業が発達しました。浜松市に機織り機の製造会社(後の「スズキ」)が誕生したのもうなずけます。ピアノ作りには、高い木材加工技術が必要です。材料がある、職人がいる、また浜松市とそのまわりには木材を加工する工場や作業場が多くある、ピアノ作りにはうってつけの環境だったといえます。その後、ピアノやオルガンの製造で培った木材加工技術に着目した日本陸軍が、木製プロペラの製造を依頼したことがきっかけになり、バイクを作るようになっていくのです。

似たような事例が世界の他の地域にないか探し、自然環境がどういった特産品を生み出し、産業形成に作用していくのか――。その積み重ねの中で原理・原則が分かってくれば、初見の表やグラフ、地図が出ても対応できます。

――具体例を貫くものを見つけていくということですね。

別の言い方をすれば、具体例という知識を集積しつつ、一つ上のカテゴリーを捉えていく作業です。こうした勉強をしていけば、ストーリー性のある問題群にも対応できます。

ドイツを例に取りましょう。1990年の東西再統一後、特に製造業を中心とした就業機会を求めて旧東ドイツから旧西ドイツへと人口の移動がみられました。2000年代になると情報技術の進展でサービス経済が大きく成長しました。これはサービス業だけにとどまらず、工場や生産設備を持たず、生産を外注するファブレス企業が増えたことも背景の一つです。そのためドイツの様々な場所で就業機会が増え、人口増加の地域差が小さくなっていきました。これを、「ドイツの例」ではなく、サービス経済の発展と人口移動という観点で整理し、その具体例として捉えるのです。

東大や一橋大の個別試験の地理の問題では、こうした力を問う問題がよく出題されます。事例を知っていて、かつ使いこなす。そこまで求められているといえます。

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