中学受験オンライン相談室

第5回◆中学受験をやめるのは「撤退」ではない、悩んだ末の「戦略」だ

2022.01.07

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加賀 直樹
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朝日新聞EduA編集部は昨年12月3日、オンライン相談室「中学受験生が大幅増!? 後悔しない志望校選び」を開催しました。約2100人の参加応募者から寄せられた疑問や不安に、都内で中学受験専門塾を主宰する矢野耕平先生と、「新聞活用」連載でおなじみの清水章弘先生が答えました。そのエッセンスを5回にわたり再録します。(写真は、終了後、視聴者プレゼントの著書とともに記念撮影する矢野耕平〈右〉、清水章弘〈左〉の両先生と、司会の山下知子編集長)

矢野耕平

話を聞いた人

矢野耕平さん

中学受験専門塾スタジオキャンパス代表

(やの・こうへい)1973年生まれ。大手進学塾勤務後、東京・自由が丘と三田で中学受験専門塾2校を展開。国語専科博耕房の代表も務める。著書に『男子御三家』『女子御三家』(ともに文春新書)、『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書) 、『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書・共著)など。2児の父。

清水章弘

話を聞いた人

清水章弘さん

「勉強のやり方」を教える塾プラスティー代表

(しみず・あきひろ)1987年生まれ。東京大学教育学部卒、同大学院修了。東京・京都・大阪で勉強のやり方を教える塾を運営。朝日新聞EduAで「200字まとめ作文」などを連載。TBS系「教えてもらう前と後」などテレビでは「赤門の神」の異名も。『自ら学ぶ子を育てる! 清水先生の自宅学習相談室』(朝日新聞出版)など著書12冊。

中学受験か高校受験か

■お悩み・その⑨  地元の公立中学でトップの成績を保ち上位高校(大学付属校を含む)へ進むのがよいか、中高一貫校へ進学するのがよいか、悩んでいます。また、中学生にとって電車通学の時間は負担ではないか? 通学時間があるなかで部活と勉強の両立は可能かどうか?(東京都・主婦・小学4年)

矢野 これはもう、保護者の方が両方を調べてもらうしかない。どちらも良しあしはあると思うんです。小学生の時に受験勉強をさせるべきか、あるいは中学校の時でいいのではないか。どちらが正解かということはありません。まずは、中学受験勉強を我が子にさせる意義をじっくり考えていただく。東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で、私立中学校を受験する子って、約16%といわれています。6人に1人です。そう考えると、まだまだ中学受験って特殊な世界ですし、高校受験が主流です。そこも頭の中に入れつつ、お子さんの様子を見て、いろんな塾を見学して判断してほしい。清水先生は、中学受験をされましたが、最初からごく自然にだったのですか?

清水 うちは3人兄弟。全員が男で、僕は一番下です。一番上が高校受験で、2番目が中学受験だったんですね。2番目の兄と年が近かったんで、「アキヒロもやってみろ」って言われてやりました。塾ではいま高校受験の生徒も教えているのですが、高校受験は中学受験と違って、英語や内申書が必要じゃないですか。その相性を見極めるのが良いと思います。そのうえで(中学受験をやめて)高校受験に切り替えるのは、アリだと思います。中学受験から「撤退する」みたいな言葉には違和感がある。

矢野 「挫折しちゃった」みたいな。そういうニュアンスを感じてしまうかもしれない。

清水 中学入試でも高校入試でも、本番のたった数時間で力を発揮できるかを測るものです。その数時間での勝負を、今やるべきか、それとももう少し後ろにスライドした方がいいのか。それは、むしろ「戦略」だと思います。

矢野 おっしゃる通りですね。そこに後ろめたさを感じる必要性もないと思います。あとは、よく言われるのが「お子さんはちょっと落ち着きのないタイプだから中学受験しないと。内申点が取れませんよ」。あれも私は疑問です。中学に入ったら子どもたちも変わります。大きく変わる。加えて、中学受験だからこそ入りやすい学校もあれば、高校受験だから実は合格しやすい学校もたくさんあります。じっくり、ゆっくり悩んでいただければと思います。

山下 我が家も、中学受験か高校受験かは、大変悩みました。

清水 どうされたんですか。

山下 我が家は、「撤退」ではなく「スライド」しました。

清水 スライドされましたか。決め手は?

山下 息子が「なんで中学受験しなくてはいけないのか?」って質問してきたんです。「そもそも中学校っていうのは受験しないと入れないところなの?」って。義務教育だから誰でも入れるし、みな行かなくちゃいけないところ。「だったら何で受験するの」って言葉が出た瞬間、家族で話しました。

清水 迷いやネガティブな気持ちはありましたか?

山下 ありましたよ。教育熱心な家庭は、中学受験をするイメージがあったので、中学受験をしないのは「意識が低い家庭」と思われるのではないか、という。でも、子どもの様子を見ていて、12歳よりは15歳の時にチャレンジした方が、きっとこの子はもっと主体的に選んでやってくれるだろうな、とも思えたんです。今は後悔していません。だけど悩みました。でも悩んで良かったと思います。

矢野 その小学校の同級生たちがどれぐらい中学受験をされるのかも、結構大きく関わっていますしね。

山下 当時、8割ぐらいが中学受験する小学校だったんです。

清水 それはつらかったですね。

山下 1月の教室で出席していたのは、35人中5人でした。隣のクラスと合同で授業をやっていたほどです。決断した後も、モヤモヤと考え続けました。

矢野 モヤモヤしてしまうのはわかります。でも、「撤退」じゃないんですよね。別に何かから逃げているわけでもない。どこのステージが、お子さんが一番輝けるかを考えてのご判断だと思うんです。

清水 主役はお子さんご本人、学習者ですからね。

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