一色清の「このニュースって何?」
JAXAが宇宙飛行士募集 → いよいよ始まる月探査計画の狙いを知ろう
2021.12.24

日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真は、日本の無人輸送船〈左〉が、月を回る宇宙ステーション「ゲートウェー」に接近するイメージ=JAXA提供)
アポロ計画との違い
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2021年12月20日から、新しい宇宙飛行士の募集を始めました。13年ぶりの募集になります。今回採用された宇宙飛行士候補は、アメリカが主導して日本も参加する月探査計画(アルテミス計画)の要員となります。日本人として初めて月面に降り立つことになる可能性も高く、どういう人が採用されるか、注目されます。
アメリカでは1960年代にも月探査のアポロ計画がありました。当時は自由主義陣営のアメリカと社会主義陣営のソ連が対立する冷戦時代でした。61年にソ連が人類初の有人宇宙飛行を成功させました。「地球は青かった」というガガーリン宇宙飛行士の言葉は有名になりました。先を越されたアメリカのケネディ大統領は「60年代中に人間を月に到達させる」と宣言し、アポロ計画がスタートしました。そして宣言通り69年7月にアポロ11号が月面に着陸し、アームストロング船長とオルドリン飛行士が月に降り立ちました。「この一歩は小さいけれど、人類にとっては大きな一歩だ」というアームストロング船長の言葉が有名になりました。
アポロ計画は計6回の有人月面着陸を成功させましたが、莫大な費用がかかることや目的を遂げたことなどから72年に終了しました。その後アメリカは宇宙と地球を行き来できるスペースシャトルや地球の周回軌道上に長期間にわたって人が滞在できる国際宇宙ステーション(ISS)の建設や活用に力を入れ、地球外の星に人類を送るという試みは止まっていました。
しかし、中国との「新しい冷戦」が始まり、中国が宇宙開発に積極的になると、アメリカでは再び有人の月探査をしようという機運が盛り上がってきました。2019年には有人月探査計画であるアルテミス計画が発表されました。アポロはギリシャ神話に出てくる太陽の神の名前ですが、アルテミスはギリシャ神話に出てくる月の女神の名前です。今度はアメリカ一国でやるのではなく、親しい国にも参加してもらおうということで、20年に日本も参加することに合意しました。現在13カ国が参加を表明しています。
アルテミス計画がアポロ計画と違う点はいくつもあります。まず、アルテミス計画では、月の周回軌道にゲートウェーを建設することです。アポロ計画では月に行って帰ってくるだけでしたが、ゲートウェーはいわゆる宇宙ステーションで、ここに宇宙飛行士が滞在し、ここを拠点として着陸船で月と行き来します。
月探査の内容も違います。アポロ計画では、人類が月に降り立つことに重点が置かれ、探査としては月の石を持ち帰るなど表面的な地質の調査で終わりました。アルテミス計画では、月面に基地を設け、本格的な資源探査に取り組むことにしています。月には大量の水(氷)があるのではないかと考えられていて、水の存在を探査したり地球上では希少だとされている鉱物資源を探査したりすることにしています。いずれ月に人が住むことを視野に入れた探査になります。