わが子を算数・数学嫌いにさせない習慣

石器時代の物品管理ツール「トークン」から「1対1の対応」を考える

2022.01.07

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芳沢 光雄
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算数や数学は、公式や解法を暗記し、数字を当てはめて正しく計算できれば、正解にたどり着ける――。パターン化した入試対策の影響か、受験生はそんな「暗記数学」のわなに陥りがちです。人工知能(AI)が急速に普及するなか、今後求められる算数・数学の力とはどんなものでしょうか。数学者で、小学生から大学生まで幅広く数学の面白さを教えてきた桜美林大学リベラルアーツ学群の芳沢光雄教授が、「AI時代に必要な数学力」を説きます。(タイトル画:吉野紗月)

自然数の発生を示す粘土板

紀元前1万5000年~紀元前1万年頃の旧石器時代の近東では、動物の骨に何本かの線を切り込んだものが使われていました=図1はこちら。それらの切り込みは、一日一日の暦に関係していたという説があります。

その後、紀元前8000年頃から始まる新石器時代の近東では、さまざまな形をした小さな粘土製品の「トークン」というものが使われていました。1壺の油は卵形トークン1個で、2壺の油は卵形トークン2個で、3壺の油は卵形トークン3個で……というように、一つ一つに対応させる関係に基づいて物品を管理していたのです。

重要なことは、当時は個々の物品それぞれに対応するトークンがあったことです。すなわち、同じ形のトークンで異なる物品を管理することはなかったのです。

トークンは、紀元前8000年頃から紀元前3000年頃まで途切れることなく使われていたようですが、「ひとつがいの雉(きじ)も2日も、ともに2という数の実例であることを発見するには長い年月を要したのである」という哲学者・数学者バートランド・ラッセル(1872-1970)の言葉にもあるように、具体的な物品それぞれに応じたトークンによる数の概念が発展し、具体的な物品によらない数の概念が確立するまでには長い年月を要しました。

そして、イラクのウルクで出土した紀元前3000年頃の粘土板には、5を意味する5つの楔(くさび)形の押印記号と羊を表す絵文字の両方が記されたものが見つかっています。これは5匹の羊を意味しますが、数の概念が個々の物品の概念から独立したことを示しているのであり、「自然数(0より大の整数)」の萌芽(ほうが)を意味しています。

要するにその時点で、4匹の羊、4個の木の実、4匹の魚などをひとまとめにした「4」の概念や、5匹の羊、5個の木の実、5匹の魚などをひとまとめにした「5」の概念……といった「個数」の概念が芽生えたといえるでしょう。

注意すべきことは、たとえば4匹の魚と5個のリンゴがあった場合、リンゴの方が魚より多くあるという判断は、数えなくてもできる、ということです。図2=こちら=のように一つ一つを対応させる「1対1の対応」という考え方によって、余った方が多く、どちらにも余りがなければ(個数は)等しいからです。

実は、有限個の個数に適用していた1対1の対応の概念を、無限個の世界に上手に拡張すると、自然数1,2,3,4,5,…全体と、0より大の偶数2,4,6,…全体は、以下のように上段の各数をそれぞれ2倍することによって、どちらも漏れることなく1対1の対応がつくのです=図3はこちら

【問題】
0より大の奇数1,3,5,…全体と、0より大の偶数2,4,6,…全体は、漏れることなく1対1の対応がつくことを示しましょう。

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