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慶應義塾・伊藤公平塾長「4月から対面授業9割に転換」
2022.01.25

慶應義塾の伊藤公平塾長(慶應義塾大学長)は、2021年5月の就任時に、コロナ禍の教育・研究の課題や、医工連携、人文知との融合などを掲げました。この間、医療系を持つ強みを生かしてコロナのワクチン職域接種をいち早く行うなどしてきましたが、掲げた課題への取り組みはどこまで進展しているのでしょうか。コロナ後の大学教育や、東京歯科大との統合を延期した理由、一貫教育についての考えなどを含めて聞きました。(写真は、慶應義塾大の三田キャンパス)
(いとう・こうへい)慶應義塾大学理工学部計測工学科卒、カリフォルニア大学バークレー校工学部 Ph.D.取得。1995年、慶應義塾大学理工学部助手。2007年、同教授。大学国際センター副所長、理工学部長・理工学研究科委員長などを経て、21年5月から慶應義塾長(学校法人慶應義塾理事長兼慶應義塾大学長)。専門は量子コンピューター。
「対面9割」を一度やってみて考える
――塾長に就任して7カ月あまり経ちますが、就任会見で語ったコロナ禍の研究、教育の課題は進んでいますか。
慶應義塾の創立者、福澤諭吉の教えは「一身独立して一国独立す」「独立自尊」であり、民主主義を主張しています。学内のプロセスに時間はかかりますが、着実かつ順調に進んでいます。
授業をどうするかについては、塾長になって以降、各学部の代表者が頻繁に集まって、徹底的に議論しました。その結果、教員が学生全員の顔を見ながら教え、場を共有することが大切だ、このままだと教育の質が落ちかねないという結論になりました。一方で、最先端のツールを使って新しい授業をすることも必要で、両方をミックスすることにしました。最終的に、この4月からの対面授業は9割とし、昨年12月24日に大学ホームページで公表しました。
――慶應義塾大学はこれまで対面授業の比率が5割くらいで、オンライン授業積極派という印象があったので、意外です。大教室の授業も対面で行うのですか。
9割ですから、そうなります。換気設備を改善するなど、環境整備を行ったうえで、大教室も対面で授業を行います。一度、9割を対面でやってみて、さあどうするか考えようということです。教員の多くが対面授業を望んでいることが、議論の積み上げの中で上がってきました。対面授業と言うと、後戻りするように思われるかもしれませんが、オンラインのツールは積極的に使います。一部の学生は学外から授業に入ってくるかもしれないし、科目によっては外のコンテンツとつなげることがあり得ます。対面もオンラインも区別がつかなくなるはずです。
秋学期は昨年10月からでした。コロナの第5波の収束が見えてきたのが9月末で、対面授業にできるものは対面にしましたが、すでにシラバス(講義要項)でオンライン授業と書いてあるものがあり、対面はあまり増えていません。
対面授業を9割にすることで、学生が大学に来たいと思わせるシステムをつくることが大事です。そして生涯の友にキャンパスで出会うのです。
――コロナ後の大学教育をどう考えますか。
コロナによって、我々が真剣に取り組まなければいけないことが顕在化しました。教員が一番向き合うべきなのは学生です。なぜ大学に来るのか、そのインセンティブを学生のために、学生と一緒につくっていかなければいけません。
これまでは例えば留学プログラムにしても、大学が用意したものを提供するだけにとどまっていました。学生がこういう学びをしたいということを、もっとつくっていかなければなりません。キャンパスの再定義が必要です。
慶應義塾の精神は「半学半教」(互いに教え、学び合う)なので、学生が能動的につくっていく環境をつくる必要があります。