「STEAM」で未来をつかむ

『13歳からのアート思考』末永幸歩さん「常識のたがを外すことが創造的な探究につながる」

2022.01.26

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斉藤 純江
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「『自分だけの答え』が見つかる 13歳からのアート思考」の著者で、中学や高校で美術を指導した経験があるアーティストの末永幸歩(ゆきほ)さんは、作品づくりや知識の習得を重視する従来の美術教育に疑問を感じ、アートを通してものの見方を広げる「アート思考」に力点を置いた講義やワークショップを各地で展開しています。「探究学習やSTEAM教育にもつながる」という末永さんの講義は、どのように進められているのでしょう。(写真は末永幸歩さんの指導で図工の授業内容を考える課題に取り組む学生=浦和大、末永さん提供)

末永幸歩

話を聞いた人

末永幸歩さん

美術教師・アーティスト

すえなが・ゆきほ 武蔵野美術大造形学部卒業、東京学芸大大学院教育学研究科(美術教育)修了。浦和大こども学部講師、東京学芸大学個人研究員。新聞・雑誌への執筆活動のほか、教育機関での講演や大人向けのセミナーなど、アート思考に関する活動多数。著書に「『自分だけの答え』が見つかる13歳からのアート思考」(ダイヤモンド社)がある。
facebook: https://www.facebook.com/yukiho.artthinking

自分なりの答えをつくる力を育む

「アート思考の『アート』は表現技法ではなく、自身の視点でものごとをとらえ、解釈し、表現することです。美術の本来の目的は、常識的なものの見方から離れ、自分なりの答えをつくる力を育むことです」と末永さんは話す。

末永さんの講義は、参加者の興味や疑問を引き出すところから始まる。講師を務める浦和大(さいたま市)で、2021年11月にあった、主に小学校教員を目指す学生向けの「図画工作」の講義では、20人ほどの学生が「ありえない図工の授業」を実践するという課題に挑戦していた。「教育者の卵である学生に、教育のノウハウを身につけること以前に、教育の常識や前提を問い直すこと」が狙いだという。

講義は週1回、1年で、学生たちは4人1組の班になり、従来型の図工の授業に対する疑問を出し合い、自分たちでやってみたい授業案を考える。最後は、小学生たちにオンラインで各班が考えた授業を受けてもらう。

「机の前に座り、筆を使って絵の具で紙に絵を描く」という前提を覆したいと考えた班は、「教室をまるごと使って、絵の具で楽しいことをしたい。絵の具をバケツに溶かして、水鉄砲を使って教室の壁を色でいっぱいにできないか」と思案していた。

「ほかの人の作品に手を加えてはいけない」という常識を疑った班は、「最初の人が何か抽象的なものを描いた画用紙に、別の人が自由に描き足して一つの作品にする」という進め方を考えた。

受講者の一人、1年の霜山駿さんは「最初はむちゃな課題だと思ったけれど、発想力が鍛えられた。子どもたちともこんな体験を共有できたらいい」と語る。

末永さんは「この講義では思い切り空想を膨らませ、思い切り失敗する経験をしてほしい。できあがる授業は、いまの教育の常識にあてはめると『ありえない』と言われてしまうようなものかもしれないが、自分で考える経験を最優先したい」と言う。

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