共通テスト 2年目の波紋
進学校の先生の見方① 攻玉社 「数学の難しさは、歴史に残る年に」
2022.01.26

1月15、16日、2年目となる大学入学共通テストが実施されました。各校は1年目を踏まえ対策して臨んだようですが、どうだったのでしょうか。受験生の反応は? 進学校として知られる高校の先生に聞きました。第1回は、東京都品川区の私立中高一貫男子校、攻玉社高校です。(写真は、攻玉社校舎=同校提供)
(さいとう・たけし)東京理科大学理学部第一部数学科卒業、同大理学専攻科修了。1991年度から攻玉社中学高校専任教諭。教員歴31年目。2019年度から現職。担当教科は数学科。吹奏楽部と数学研究愛好会の顧問も務める。
解法にたどりつくまで回り道も
――2年目の共通テストに、どのような感想を持ちましたか。
一言で言えば、数学の難しさにつきます。1年目よりは難しくなるだろうと予想していましたが、想定以上でした。普段見慣れていない問題形式で出題されたので、受験生は戸惑ったと思います。平均点が低いのも当然だと思います。
――具体的には、どのような形式にてこずったのでしょうか。
以前の大学入試センター試験ですと、たとえば大問1は計算問題、大問2は関数というように、どの単元の分野で解けばいいのか、問題を一読すれば判断がついた。「瞬発力」を試されるような問題だったといえますね。しかし今年は問題文が複雑で、どうやって解けばいいか右往左往した受験生も多かったのではないでしょうか。
たとえば数学ⅡBの数列では状況設定の説明が13行もあり、まるで長文読解。公式をどう使うかより、n=1、2、3と順番に代入してしまったほうが正解の見当がついてしまいました。これはもはや数列ではありません。
数学ⅠAは10分間延長されましたが、数学ⅡBは60分のまま。これでは時間が全く足りないと感じました。
――より読解力、思考力が求められたということでしょうか。
確かにそれを狙って作問したと思いますし、作った側の気持ちも理解できます。しかし教科書には、太郎さんや花子さん(会話文)は出てきません。授業では公式を学んで、それを元に問題を解く力をつける、応用問題にあたって学力を定着させ、単元を終える、というやり方です。今回の数学は、そこからさらにステップアップしていた。問題集の発展問題だったり、参考書のコラムにあるような特殊なパターンの問題だったり。そういったたぐいの問題でした。国公立大学の2次試験のようにも思えました。
問題の題材は教科書レベルではありましたが、たとえば数学ⅠAの不定方程式では、XとYの係数が通常は1桁かせいぜい2桁の数値なのに、5の4乗や11の5乗など、非常に複雑化していた。ところどころに、そうした傾向が見られました。
――難易度が上がった作問の意図を、どのように捉えていますか。
私自身、中学入試の問題を作っていますが、単元をそのまま出すと面白くないので、ちょっとひねって作問することがあります。できあがった問題を見て、難しければ軌道修正します。作問者は「問題を複雑にしても、導入を丁寧にしてあげれば解ける」と思われたのでしょう。しかし、もうちょっとブレーキを踏んでほしかったですね。受験生は最後の不定方程式の問題を見て、「え、さらにこれ解くの?」と思ったでしょう。
数学ⅠAの平均点が40点そこそこですから、手も足も出せずに、おそらく5点とか10点の生徒もいたと思います。大学入試を前提とした基礎学力を測る問題としては、いかがなものでしょうか。本校でも数学の教員の動揺が大きかった。数学に関しては、ある意味、歴史に残る年になってしまったと思います。
――他教科に関してはいかがですか。
昨年は英語のリスニングで、1回読みの聞き取りに苦労したため、対策をしっかりと講じていたようです。国語は漢字の出題の仕方が変わっていましたが、それほど難易度が上がったと感じられた先生はいなかったようです。
平均点が低いときこそチャンス
――点数が伸び悩んだことで、志望校選びに影響は出ますか。
問題が難しくなると気持ちが後ろ向きになりますが、前年度より想定以上に難化した過去の例をみると、強気で出願した生徒の方が良い結果を残しています。易しかったときのほうが、油断してひっくり返されるケースもあります。予備校から返ってきた成績表を見て判断しますが、「第1志望を変えずに強気でいけ」と背中を押すつもりです。
――今回の結果を受けて、来年からの指導が変わることはありますか。
求められている思考力に応じた指導が、必要になってくるでしょうね。ひとつの単元で、もう一押しやることが増えたイメージです。しかし普段の授業に、今後は探究や情報が加わり、さらに数学もプラスアルファが加わる。やるべきことが次々と重なって、時間をどう作っていくか頭を悩ますところです。現場としては「もうちょっと整理してくれよ」と言いたいですね。
難しい年の翌年には易化すると言われていますが、そんな常識は通用しないとみています。2年生には「来年もこれくらいだと思っていた方がいい」と指導していくつもりです。気を緩めずに勉強してもらいたいですね。