この先生と究めたい 大学 学びの最前線
植物の力を引き出し、環境負荷の少ない農業を 高知大学蔬菜園芸研究室
2022.02.16

◇高知大学 蔬菜園芸研究室 農林海洋科学部農林資源環境科学科
気候変動や高齢化、後継者不足――。山積する農業の課題解決のため、今日の農学には新たな技術開発が求められている。ポイントは発想の転換と、変わらぬ地道な努力だ。(写真/朝日新聞出版写真部・東川哲也)
西村安代准教授の蔬菜(そさい)園芸研究室では、植物を栽培するハウスに用いるフィルムや肥料など、次世代の農業資材の研究を行っている。近年取り組んでいるのは欧州発の新しい技術「バイオスティミュラント」。植物や土壌の力を引き出す物質や微生物を用いて、植物が環境から受けるダメージを軽減し、化学農薬などによる自然環境への負担も減らすことが理想だ。西村准教授は「いまは病気になってから薬を飲むよりも、まず運動や食事改善などで不調を防いだり、ストレスに対する免疫力を高めたりすることが重視されていますよね。植物に対しても同じように考えるのがこの技術なのです」と説明する。
植物がよりよく育つための手助け
高知県と共同で、ニラの養液栽培(土を使わずに肥料を溶かした培養液を用いて作物を育てる栽培方法)の研究も行っている。液肥自体は市販のものだが、実験には西村准教授ならではの工夫がいくつもある。「培養液にバイオスティミュラント資材を加えることで、ニラの状態をよりよくしようと試しています。また、適温の培養液は植物の根を強くするので、ヒーターで培養液を温めて循環させています」ハウス全体を温めるよりも燃料費が節約でき、CO₂の排出も抑えられる。腰の高さにニラを植えているので、かがまずに作業できるのも利点だという。自然環境にも人間にも負荷の少ない栽培法だ。学生は日々、培養液の温度を測ったりニラの細部を観察したり、小さな変化も見逃さずに研究を続けている。

農業に無関係な人はいない
同研究室がある農林海洋科学部には、自然豊かな物部キャンパス(高知県南国市)の環境にほれ込んだ学生が多いそうだ。だが自然相手の研究は厳しい。「注目される結果の裏には、膨大な時間が費やされています。とにかく地道にコツコツやるしかありません」と笑う西村准教授。「自ら育てた野菜はもちろん、近くの海で自ら釣った魚を食べる学生もいる。若いうちは都会に憧れがちですが、こうした『自分で手を動かす』経験は、ものの見方を変えるはずです」

「スーパーの野菜売り場で、値段や量のバランスが気になるようになりました」
目が肥えたのかな、と続ける不破真毅さん(3年)の大学選びには、祖父の趣味が大きく影響している。畑を借りて野菜を作っていた祖父は、不破さんが遊びに行くたびに、収穫や種まきをさせてくれた。その経験が忘れられず、不破さんは兵庫県から高知大学へやってきたという。
「好きでなければ続かないことだと思いますが、僕はつらいと感じたことはありません。祖父の畑ではあくまで手伝いでしたが、大学の農場ではキュウリやレタス、白菜などいろいろな野菜をいちから育てています。自分で作って自分で食べた時には感動しました」
卒業研究では、西村准教授の指導の下、光がニラに与える影響を研究している。冬のニラ栽培では、夜間に数時間光をあてる「電照栽培」をすることがあるが、より多くの収量を得るためにはどうすればいいのか。光源や照射時間などを変えて、その変化を調べている。
「植物が育つには、どんな光を、いつ、どれぐらい当てるかが強く影響します。2種類の光をそれぞれ当てる鉢、そして光を当てない鉢。さらに肥料を与える鉢を作り、肥料の量によっても鉢を変えて……」
この研究のために栽培しているニラは80鉢を超えるというが、不破さんは「主軸にあるのは植物を育てる楽しさ」だと生き生きしている。
同じ研究室の加藤真弥さん(3年)は小さいころから自然が好きで、植物だけでなく気象にも関心があった。密接な関係のあるふたつのジャンルをどちらも学べること、キャンパスの環境のよさから高知大学への入学を決めた。
「キュウリを育ててみたら病害が出て、思っていたよりも繊細なものだと実感しました。そこで気象条件から病害の発生を予測し、予防に役立てることはできないかと考えて研究しています」
湿度や温度などハウスの内外の気象データをとりながら、植物の状態との関連を調べている。
