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学生サークルとの共同開発で宇宙空間をめざす 神奈川大学高野敦研究室

2022.03.23

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西島 博之
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◇神奈川大学 高野敦研究室 工学部 機械工学科

安全で低コスト――。大学生が開発した超小型ハイブリッドロケットが打ち上げ高度の日本記録を更新した。2023年度には「宇宙空間の下限」とされる高度100キロ到達をめざす。写真は2021年に打ち上げられたロケットの2号機。後列右から2人目が高野敦教授(写真提供/神奈川大学)

2021年9月、秋田県能代市の海岸で神奈川大工学部機械工学科の航空宇宙構造研究室と、同大の学生サークル・宇宙ロケット部が開発した超小型ハイブリッドロケットが打ち上げられた。到達高度は10.1キロ。民間による同種ロケットの日本記録(8.3キロ)を更新した。ハイブリッドロケットはプラスチック樹脂などの固体燃料を液体の酸化剤で燃やして推力とする。

「ハイブリッドロケットの燃料は爆発するようなものではありません。燃料の保管や移動に専用設備が必要な液体ロケットや固体ロケットと比べて安全性が高く、運用コストを低減できます」(高野敦教授)

開発から打ち上げまで学生が主役

高野教授は、大手電機メーカーで航空機やロケット、人工衛星の構造設計に携わり、神奈川大に着任した14年から宇宙ロケット部と共同でハイブリッドロケットの研究開発を行ってきた。一部の精密機械部品の加工は東京都大田区の企業などに委託するものの、設計から組み立て、打ち上げまでのほぼすべてを学生の手で行っている。それが研究室の大きな特徴だ。

14年に初めてロケットの打ち上げに成功。15年から18年まで毎年、到達高度を伸ばしてきた。19年は燃焼実験でエンジンが破裂するトラブルが相次ぎ、20年はコロナ禍で実験ができなかったことなどから打ち上げを断念。21年9月、3年ぶりの挑戦で到達高度の日本記録を更新した。ただ、機体は回収できなかった。

「台風接近による結露で電子機器にトラブルが発生し、回収に必要なGPSの座標が返ってこなかった可能性があります。また、高度10キロの外気温はマイナス50度ほど。低温でパラシュートを開くための電子回路が作動しなかったのかもしれません」(高野教授)

「ハイブリッドロケットの活用法は広がる」と話す高野教授(写真提供/神奈川大学)
「ハイブリッドロケットの活用法は広がる」と話す高野教授(写真提供/神奈川大学)

新たな課題を克服して、22年度には高度35キロ、23年度には「宇宙空間の下限」とされる100キロ到達をめざす。高度を上げていくには機体の軽量化とともにエンジンの推力を上げる必要がある。日本記録を更新できた大きな要因は、構造設計によって機体を軽くし、燃料と酸化剤をより多く積むことができたことだ。

「エンジンの改良はもちろんのこと、機体に占める燃料と酸化剤の重量比率をさらに向上させていきたい」(高野教授)

超小型衛星の打ち上げが可能

各大学では安価な超小型人工衛星の研究が盛んで、実際に宇宙に打ち上げられている。ただ、大型ロケットに複数の衛星が相乗りする形での打ち上げがほとんど。超小型ロケットが実用化されれば、大学ごとの目的、スケジュールなどに合わせた衛星打ち上げも可能だ。学生がつくった人工衛星を学生がつくったロケットで打ち上げる――。そんな未来が近づいている。

設計から組み立て、打ち上げまで。ロケットの研究開発は学生が主体。写真は航空宇宙構造研究室のホワイトボード(撮影/朝日新聞出版写真部・張 溢文)
設計から組み立て、打ち上げまで。ロケットの研究開発は学生が主体。写真は航空宇宙構造研究室のホワイトボード(撮影/朝日新聞出版写真部・張 溢文)
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