この先生と究めたい 大学 学びの最前線
学生サークルとの共同開発で宇宙空間をめざす 神奈川大学高野敦研究室
2022.03.23

宇宙ロケット部が広報活動なども担当する
超小型ハイブリッドロケットの研究開発を行うのは機械工学科の航空宇宙構造研究室(学部学生13人、修士課程1人が在籍)と、学生サークルの宇宙ロケット部(部員数27人)の学生だ。研究室だけでなく、サークルの学生も参加していることが大きな特徴だ。宇宙ロケット部は、高野研究室でハイブリッドロケットの研究開発が始まった14年に創設。神奈川大に航空宇宙系の学部学科がないなか、「宇宙に挑戦したい」と考える学生が入部してくるという。機械工学科の学生だけでなく、文系学科の学生も参加している。宇宙ロケット部の広報担当、川口舞子さん(機械工学科4年)がこう話す。
「ロケットの到達高度を伸ばすための活動を主に行っています。高野研究室で扱うことが難しいような一部の電子回路の設計や製作は当部の学生が担当しています」
ロケットの開発から打ち上げまでには、学内外の多くの関係者との連携や調整も必要になる。神奈川大では、ロケットを構成する一部の精密機械部品の製造は企業に委託している。こうした企業との協力関係を築いたり、メディアからの取材に対応したりするのも、広報担当としての川口さんの重要な役割だ。
「ハイブリッドロケットの到達高度の日本記録を更新したことから、メディアの方々からの取材も増えました。研究室や宇宙ロケット部の学生が頑張っている姿を多くの人に知ってもらいたいと考えています」(川口さん)

実は、神奈川大でロケットの研究開発が行われていることはあまり知られていなかったという。「機械工学科というと、ロボットの研究開発というイメージが強い」(高野教授)ためでもある。宇宙ロケット部の部長を務める高階智和さん(機械工学科2年)がこう話す。
「私も入学して初めて宇宙ロケット部があることを知りました。ロケットのことを知らなくても、いちから設計や製作を学ぶことができるのが大きな魅力です」
日本記録の更新によって、「神奈川大で宇宙をめざしたい」と考える学生も増えそうだ。
ロケットが活躍する場がさらに広がる
超小型ハイブリッドロケットが実用化されれば、前述したように、目的やスケジュールなどのニーズに応じて、超小型人工衛星を打ち上げることも可能になってくる。それだけではない。超小型ロケットはさまざまな分野で活躍できると高野教授は話す。例えば、高度20~100キロで起こる、「高高度放電現象」と呼ばれる放電による発光現象の観測だ。気球を使えば高度35キロぐらいまでは観測機器を上げることができるが、それ以上の高度の観測にはどうしてもロケットが必要になる。
「地球上から観測できないような、高高度の大気観測にハイブリッドロケットを活用することが可能だと考えています」(高野教授)
さらに、現在、研究が進められている「火星探査航空機プロジェクト」の実験にも使うことができるという。火星探査はこれまで人工衛星やローバー(探査車)を使って行われてきた。火星で航空機を飛ばすことで、火星表面の広範囲な画像の撮影や大気の観測を行おうというのが火星探査航空機プロジェクトだ。火星の大気密度は地球の約100分の1。地球の高度35キロの大気密度に相当する。気球を使ってこの高度まで火星探査航空機の実験機を打ち上げ、各種データを得る実験が行われてきたが、ハイブリッドロケットの活用も可能だという。
液体ロケットや固体ロケットに比べて安全性が高く、低コストで運用可能なのがハイブリッドロケットの特徴だが、推力が弱いというデメリットもある。到達高度もおのずと限られてくる。それでも、ハイブリッドロケットの活用法はまだまだある――。高野教授の夢は広がる。

【大学メモ】
神奈川大学 1928年に米田吉盛が設立した横浜学院が起源。横浜専門学校を経て、49年に開学。横浜、湘南ひらつか、みなとみらいの3キャンパスがある。学部学生数は1万7333人(2021年5月1日現在)。