どうなる中学・高校入試

武蔵では男女や地域の「格差」が出題 難関私立中入試問題が問う批判的思考力とは?(下)

2022.03.09

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ひぐどん
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新型コロナウイルスの感染が急拡大するなかで行われた今年の中学入試。東京で「御三家」と呼ばれる難関私立中の入試では、「難民」や「ジェンダー」などの社会問題に対する考えを書かせる問題が出題された。時事用語の丸暗記だけでは到底歯が立ちそうもないこうした問題は、いったい何を問うているのか。長年にわたる中学受験ウォッチャーが、最新の傾向を2回にわたり解説する。(写真は武蔵高校中学の校舎)

麻布より長文の解答求める

前回は中学入試問題で、男子校でもジェンダーや女性史が出題されることが増えてきた、という話をした。麻布や開成と並び称される「男子御三家」のもう一校、武蔵でも今年は女性関連の問題が出た。

「戦前の日本では、女性に対してどのような社会的役割が求められていましたか。問題文にある旧制の学校制度や教育内容から分かることを書きなさい」(問4)
「男女や地域による進学率の違いについて、資料から読み取れることを書きなさい」(問6)

いずれも自由記述式の解答欄は、麻布のそれよりも長文を求める形式だった。四谷大塚の模範解答は、問4については「女性は家事や裁縫ができるようになることで、家をささえる妻や子を育てる母としての役割が求められた。」というものだったが、小さい字で書けばその2倍くらいは書けるスペースがある。問6の解答欄はさらにその倍くらいの面積があり、ここは資料の読み取りの正確さを問う設問になっている。と同時に、続く「平等に教育を受ける権利は憲法で保障されていますが、問題文にもあるように実際にはさまざまな格差があります。その格差の例を1つあげ、現在どのような対策が取られているかについて知っていることを書きなさい」(問7)の前フリでもある。四谷大塚の模範解答では言及されていないが、問題文の本文では戦前からの男女格差が現在でも解消されてはいないことが触れられているのだから、医学部入試の女性差別の問題などをとりあげることが期待されているのかもしれない。

前回詳しく紹介した麻布の入試問題は、問題文でズバリ時事問題をとりあげることが多いが、武蔵の場合は問題文ではそうとは書いていないが、「それを答えること」を期待するような出題のパターンがよく見られる。

たとえば今年麻布で話題になった難民は、実は武蔵では2019年入試で出題されている。この年のテーマは「国境を越える」で、江戸時代の漂流民や19世紀後半~20世紀前半の南米への移民などがとりあげられている。問題文に直接「難民」という言葉は登場しないが、最後の問題(問8)はこうだ。「短期的な旅行ではない、国境を越える人間の移動は、近年も世界の各地で発生し、議論を引き起こす場合があります。あなたの知っている例を紹介し、説明しなさい」。つまり、難民問題を答えてほしいのである。もちろん、それ以外の例でもいいのだけれど、自分から「そういう話なら、これについて知っています(考えています)」と答えてほしいのだ。

また14年入試では「(い) 二酸化炭素の排出量を削減するために、日本では1997年以降どのような方策が検討されていますか」と聞いた上で「(う) (い)で答えた方策にはどのような問題があると考えられますか」という問題が出された(問7)。これはもちろん、原発の問題点を書かせたいのだろう。

麻布の入試問題のほうがより派手で目を引きやすいこともあり、メディアでもよくとりあげられるような気がするが、武蔵の入試問題も地味ながら嚼(か)み応えがある。解答欄も麻布より長めである。短ければ「あれとあれを書けば埋まるな」とわかりそうだが、長ければその分、パターンにはまらない解答が生まれる余地がある。出題側としては採点に手間はかかりそうだが、それも期待しているのではないか。

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