どうなる中学・高校入試

武蔵では男女や地域の「格差」が出題 難関私立中入試問題が問う批判的思考力とは?(下)

2022.03.09

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ひぐどん
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時事問題に切り込む傾向

こうした地味な良問という印象が強かった武蔵の社会科が、この2年はずいぶん時事問題に切り込んできている。今年のジェンダーもそうだし、21年は「新聞」が出た。「(あ) 戦後、新聞の発行部数が増加していった理由として考えられることを書きなさい。(い) 21世紀に入り、新聞の発行部数が減少し続けている理由として考えられることを2つ以上書きなさい」(問6)、「情報をやり取りする手段が多様化した現代において、新聞にはどのような価値が見いだせると思いますか。新聞の特徴から考えて書きなさい」(問7)。小学生がこれだけ新聞について考えてくれたら、新聞社としては本当にありがたいことだろう。特に問7は問題文をよく読めばわかる、という種類の設問ではなく、ふだんの生活で問題意識をもっているかどうかが問われるのだから、これは小学生にとってはかなり厳しい問題かもしれない。だが、ここでいい記述ができれば、得点に差がつくということでもあるだろう。

「問題文がどんなに長文でも過度に恐れる必要はない。問題文が長ければ長いほど、解答はそこに示されているはずだから」という考え方もあって、確かに多くの場合はその通りなのだが、必ずしもそれで全て解けるわけでもない(17年の武蔵では「イオン交換膜方式」の製塩法を知っていないと容易に正答にたどりつけない出題があったが、これは明らかにやりすぎと思う)。

いくら長文で一見難解な問題でも、基本的には文章と資料を読解する力があれば対応できる。とはいえ、麻布や武蔵の場合はそれにプラスして、社会に対する「ものの見方」も同時に問われていることに注意しなければいけない。漱石研究が専門の早稲田大学教授・石原千秋氏は名著『秘伝 中学入試国語読解法』(新潮選書)で「入試国語が、出題者個人のではなく、学校全体の哲学の表明になっている」「入試は学校と受験生との真剣勝負の対話の場なのである。だから、入試問題がメッセージを含んでいるのは当然なのだ」と喝破した。これは社会科の入試問題においても同じ、というか、さらにより鮮明に表れている。出題者が戦後誕生した「社会科」という教科の原点に忠実であろうとしているとすれば、解答する側もまた戦後民主主義の精神で答案用紙に臨まねばならぬはずだ。私立学校なのだから、それを「偏向」と嫌う場合には、そもそも受験しないほうがいい。入学しても違和感を持つことのほうが多くなるのは確実だろうからだ。

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