漢字学習 どこまで必要?

パーツに分けて「唱えて」覚える 盲学校での指導から生まれた漢字学習法とは?

2022.03.08

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葉山 梢
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漢字の学習法というと何度も書いて覚えるのが一般的ですが、実は様々な覚え方があります。盲学校で長く指導した道村静江さんは、漢字をパーツに分けて「唱えて覚える」学習法を提唱しています。読み書きが苦手な子でも、単純な形のパーツなら覚えられるといいます。

道村静江

話を聞いた人

道村静江さん

みちむら・しずえ/1955年、福井県生まれ。中学校理科教諭として福井県立盲学校、横浜市立盲学校に通算18年、市立中学校に3年勤務。小学校教諭として、横浜市立盲学校に10年、市立小学校に4年勤務。2002年に「点字学習を支援する会」を設立して、視覚障害者用教材を提供し続けている。退職後、ユニバーサルデザインの学習法として「ミチムラ式漢字カード」を活用した漢字指導の改善・普及に力を入れ、全国各地で講演活動を行っている。

小3まで頑張れば楽になる

――道村さんが提唱する「ミチムラ式漢字学習法」とは、どんな学習法なのでしょうか?

大きな特徴は、漢字をパーツの組み合わせでとらえるところです。私は小中学校の9年間で学ぶ常用漢字2136字を徹底的に分析しました。そして分かったのは、小4〜6で習う計586字のうち82%にあたる480字は、小3までに習った漢字に使われているパーツの組み合わせでできているということでした。小3までの漢字や部首は画数が少なく、比較的覚えやすい。画数の多い漢字はそれらの組み合わせです。つまり小1~3で習う基本の漢字や部首を頑張って覚えれば、画数の多い漢字が増える4年生以降も一気に楽になります。そこで、漢字を「分解・合成の視点」でとらえて、少ない労力で多くの漢字を覚えられるようにしました。

読み書きが苦手な子どもにも適した学習法です。こうした子どもは、複雑な漢字の全体を正しく書けなかったり思い出せなかったりすることがあります。けれど、単純な形のパーツに分解して覚えると、思い出して書けることが多いのです。書く場所の配置を確認しながら、パーツの組み合わせ方を何度か唱えて、目を閉じても言えるようになったら、子どもの頭には漢字が浮かんでいます。頭に浮かんでいれば書けるので、何度も書く練習をする必要はなく、1度だけ書いて確認すれば十分です。

ミチムラ式漢字カードの表面には漢字の覚え方が載っている(道村さん提供)
ミチムラ式漢字カードの表面には漢字の覚え方が載っている(道村さん提供)

――漢字の読み方はどうやって覚えるのですか。

学校生活では書くことも必要ですが、これからの時代は読めることの方が大事です。書くことはパソコンやタブレットで何とかなっても、読めないと調べ物もできませんから。

漢字を読めない原因は、音読みを習得できていないことにあります。例えば「喜」なら「キ」が音読みで、「よろこ(ぶ)」が訓読みです。小中学校で習う漢字の96%には音読みがありますが、訓読みがあるのは62%に過ぎません。訓読みの方が分かりやすいですが、学年が上がるにつれ音読みしかない字が増えます。同音異字も多い。「喜劇」のように、音読みの熟語は身近にたくさんあるので、音読みをマスターすることが漢字学習のカギとなります。漢字を勉強するときにはパーツの組み合わせと音読み・訓読みをセットで覚えましょう。「喜」なら「じゅう(十)、まめ(豆)、くち(口)、喜劇のキ、よろこーぶ!」という具合に唱えて覚えます。リズムよく唱えると楽しいでしょう? この覚え方をまとめた「ミチムラ式漢字カード」という教材もつくりました(写真)。漢字ごとの覚え方や読みが1枚のカードにまとまっているので、楽しみながら学習できます。

ミチムラ式漢字カードの裏面には漢字の読み方が載っている(道村さん提供)
ミチムラ式漢字カードの裏面には漢字の読み方が載っている(道村さん提供)

――漢字カードに加えて、2021年には「ミチムラ式漢字eブック」という電子書籍もつくったそうですね。

eブックでは、漢字カードの覚え方に加えて、漢字の成り立ちや解説、その漢字を使う言葉を紹介しています。言葉の意味が一瞬でとらえられて、興味を引くような写真もたくさん使っています。読み方・書き方は音声で聞くこともできます。2021年度には日本デザイン振興会のグッドデザイン賞もいただきました。漢字カードは字を覚えるのが目的ですが、eブックでは語彙(ごい)を増やすために、漢字の意味を知って使いこなせるようになることも目指しました。

漢字eブックには漢字の覚え方や解説が載っているほか、読み方・書き方を音声で聞くこともできる(道村さん提供)
漢字eブックには漢字の覚え方や解説が載っているほか、読み方・書き方を音声で聞くこともできる(道村さん提供)
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