大学入試改革の「本丸」

東大名誉教授・柳沢幸雄さん「大学は入り口管理から出口管理に変えるべき」

2022.03.25

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中村 正史
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日本の大学入試では、ペーパーテスト一発勝負の一般選抜(一般入試)信仰が根強く、社会の関心も大学教育より入試に重きを置く風潮があります。しかし、欧米ではずいぶん状況が異なります。日本の選抜制度は海外の大学とどう違うのでしょうか。また、日本の大学入試や大学教育をどう変えていくべきなのでしょうか。ハーバード大学や東京大学で教授を務め、開成中学・高校の校長を経て、現在は北鎌倉女子学園学園長を務める柳沢幸雄さんに聞きました。(写真は、大学入学共通テストに臨む受験生=2022年1月15日、九州大学)

柳沢幸雄

話を聞いた人

柳沢幸雄さん

東京大学名誉教授、北鎌倉女子学園学園長

(やなぎさわ・ゆきお)東京大学工学部化学工学科卒、同大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。ハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科准教授、併任教授を経て、1999年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。2011~20年開成中学高校校長。20年から北鎌倉女子学園学園長。

高校で文系、理系に分けるのが最悪

――大学入試のあり方について、いろいろな大学に取材すると、日本は入試に重きを置きすぎる、大学教育こそが大事だ、という意見を多く聞きます。

日本は高校段階で理系、文系に分かれます。それは入試に重きを置きすぎた結果の望ましくない状況です。文系の人は、数学が嫌い、物理が苦手で、入試で点が取れないからといった否定的な理由から選んでいることが多い。入試がそうした意識をつくりあげているのが最悪で、社会に出ても理系の仕事に関与しようとしません。

典型例の一つが、NTTドコモの「iモード」です。世界で初めて携帯電話とメールやウェブをつなげたサービスだったのに、世界標準にすることに失敗しました。技術系の人は国際標準にするような交渉は得意ではないので、文系の人と協働したうえで行わなければなりません。iモードを国際標準にできなかった結果、アップルやサムスンに先を越され、日本は巨大なビジネスチャンスを失ってしまいました。

官庁や金融業界も以前は文系の天下で、多くは理系の分野には近づきたくない風潮がありました。大学入試段階で理系、文系に分けてしまうのが、一番の問題点です。

――柳沢さんはハーバード大学でも教えていましたが、それはアメリカの大学教育との決定的な違いですね。

日本のような高校段階での文系、理系の進路選択は、米国にはありません。米国では大学1、2年で幅広い学問領域を学び、その中からメジャー(専攻)を選んでいきます。その選択の過程では、研究生活を経験した教授が学生にアドバイスします。このように教養課程でリベラルアーツが展開されています。米国の大学にはリベラルアーツ大学とリサーチ大学がありますが、人を育てるうえではリベラルアーツが重要です。理系だけで世界に打って出ることはできないし、文系だけで打って出ることもできませんから。

この傾向は今後、ますます強くなるでしょう。電気自動車や自動運転、ドローン、AIなどが普及していくと、標準化がより重要になるので、理系、文系に分けていては対応できません。

――日本との大学教育の違いは、なぜ生じるのでしょうか。

米国は評価の最終的な段階が出口にあるからです。日本は大学の入り口で評価しています。そして大学教育を受けていない高校段階で理系、文系に分けてしまうのです。入り口主義から出口主義に変えなければ、この根本的な問題は解決しません。

入り口主義の日本では、入試(一般選抜)の合否を、ペーパーテストの点数だけで決めています。受験生の顔を見ることがないので、判定する側に精神的な負担が生じることなく、不合格を決めることができます。本来は、大学で単位認定する教育のプロフェッショナルの視点から面接を行うべきです。医者が「手術をする必要がある」と判断して、伝えられた患者が納得するのは、医者をプロと認識しているからです。日本の入試には、教育者にプロの自覚がありません。

また、高校の数学のレベルが高すぎますが、これは入試で差をつけなければならない入り口主義のためです。

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