学習と健康・成長

伝統芸能は「想像力を働かせて楽しむ」 子どもと一緒にまずは体験から

2022.05.06

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長尾康子
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能楽や歌舞伎などの日本の伝統芸能は、学校行事で触れるものの、なかなか深く知る機会が少ないのではないでしょうか。一方で、グローバル社会において、自国の文化を知る重要性をしばしば耳にします。子どもの頃から触れる意義や海外での評価、体験の様子などを、伝統芸能の研究者である倉持長子さんと、「こども芸能体験ひろば」の主催団体の一つである、日本芸能実演家団体協議会の宮川祐文さんに聞きました。(写真は「こども芸能体験ひろば」の様子=同実行委員会提供)

Nagako_Kuramochi

話を聞いた人

倉持 長子さん

国士舘大学文学部日本文学・日本文化コース専任講師

(くらもち・ながこ)東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、聖心女子大学大学院人文学研究科博士後期課程修了(文学博士)。専門は古典芸能(能楽)の作品研究。聖心女子大学文学部非常勤講師、サイバー大学IT総合学部客員講師などを経て現職。

伝統文化を学ぶことは究極のアクティブ・ラーニング

学校行事などで、鑑賞や体験をする機会のある伝統芸能。大学で日本の伝統文化・芸能について教える倉持長子さんは、「伝統芸能は、自ら想像力を働かせて楽しむ“究極のアクティブ・ラーニング”」だと言います。

「一般的にオペラやミュージカルなど西洋の舞台芸術は、場面に合った大道具を設置して、複雑なストーリーを観客が理解しやすいように説明しています。一方、伝統芸能では、観客が能動的に想像したり、調べたりする必要があります。役者の立ち居振る舞いを見て、そのエネルギーを感じながら頭の中でストーリーや背景を補完して、初めて作品世界が完成するのです」(倉持さん)

例えば能の場合は、舞台背景に松しか描かれていません。観客は演者の言葉や立ち居振る舞いから、どういう場面なのかを想像して楽しみます。

「『伝統芸能を観ていると眠くなる』という人もいますが、それは受け身だから。いい意味で、親切ではない伝統芸能を学ぶことで、受け身ではいられない自分を作り上げ、能動的な学習態度を育むことにつながるでしょう」(倉持さん)

鑑賞にとどまらず、伝統芸能を実際に体験すると、「ものごとを客観的に捉える力」も身に付くと倉持さんは考えます。

「例えば、日本舞踊や狂言の動きには、現代とは異なる、人の体の動きが含まれています。体験してみるとわかりますが、踊り、舞い、歌い、演じる楽しさだけでなく、普段とは違う一つひとつの体の動きを、他者に見られている緊張感を味わえます。『だらしなくいられない』という引き締まった気持ちや、『相手の視点から自分がどう見えるか』という意識が生まれ、人とのほどよい距離感を知る機会にもなります」

「こうした感覚は、自分の意見を客観視する姿勢、ものごとを俯瞰して見る視点を与えてくれます。学校の勉強、とくに小論文やレポートなどの自分の意見を述べたり、プレゼンテーションを行なったりするときに役立つと考えられます」(以上、倉持さん)

このほか、伝統芸能を通じて日本の歴史を学べたり、礼儀作法を身に着けられたりすることも。能動的に物事を学ぼうという姿勢は、子どもの興味・関心の幅を広げる一助ともなるのだそう。

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